研究課題
本研究では、これまでに行ってきた多発性骨髄腫(MM)患者由来骨髄間質細胞(BMSCs)を用いた機能解析を活かし、がんの発育・進展に寄与するがん間質細胞の本質解明を目的として、MM患者由来間質細胞の網羅的分泌因子の解析を行い、機能的がん間質に特異的な因子の同定を目指した。平成30年度は、多発性骨髄腫患者由来BMSCsと前がん病態であるMGUS(意義不明の単クローン性ガンマグロブリン血症)患者由来BMSCs、および健常者由来BMSCsの形態観察、細胞表面マーカー解析を比較した。その結果、形態や細胞表面マーカーについては健常者由来BMSCsと患者由来BMSCsでの相違は見受けられなかったが、遺伝子発現プロファイルとmiRNA発現プロファイルには相違が見られた。また、MM細胞株と共培養を行なってその増殖を促進することが可能なタイプのMM患者由来およびMGUS患者由来BMSCsに特徴的な発現を示すエクソソームmiRNAがmiR-10aであることを見い出した。令和元年度では、このmiR-10aに注目して解析を進め、MM患者由来およびMGUS患者由来BMSCsの細胞内では低発現であり、エクソソーム分泌経路を利用して細胞外に排出している可能性が考えられた。この排出されたmiR-10aが豊富に含有されるエクソソームはMM細胞(RPMI8226, U266)の細胞増殖が促進することを明らかにし、がん微小環境中でこの患者由来BMScsからエクソソームmiR-10aを排出できなくすればMM細胞の増殖を抑えられることから、in vivoモデルを用いたエクソソーム放出阻害剤によるMMの進展を抑制する新たな治療法の開発を行った。このin vivoモデルを用いて得られた成果は、Blood advances (2019) 3 (21): 3228-3240にて発表した。
2: おおむね順調に進展している
骨髄血からのBMSCsの回収技術や間質細胞からのエクソソーム抽出技術は本研究がスタートする前から長年にわたって行なって確立されており、miRNA profilingと網羅解析データに関しても非常に安定化していたことが大きな要因である。また、学会発表および論文投稿も行い、データを各段階でまとめながら進行することができた。
初年度、次年度の結果を踏まえ、技術的ノウハウと改善を行いつつ、正常間質細胞から「機能的な」がん間質細胞を誘導するモデル系を構築し、がん間質細胞の発生機序を解明を目指す。そして、多発骨髄腫だけでなく、がん間質化メカニズムを標的とした新規のsoil-targeted therapyの開発へと発展させる。エクソソームmiRNAを含む間質細胞の機能を特徴付ける分泌性因子を同定するために、マイクロアレイを用いたそれぞれのBMSCsにおける遺伝子発現解析とPCRアレイを用いたmiRNA発現解析、培養上清を回収して質量分析LC-MS/MSを用いてプロテオーム解析を行っていく。さらにこの特異的因子の発現を指標に健常者由来間質細胞から「がん間質細胞」の誘導モデル系を構築してがん間質化メカニズムの解明を行う。
研究成果について投稿し、投稿に関する費用に充当する予定であったが、令和元年度内に採択されなかったため、差額が生じた。これらは、最終年度にて論文投稿費として使用予定である。
すべて 2020 2019
すべて 雑誌論文 (6件) (うち査読あり 6件、 オープンアクセス 6件) 学会発表 (4件) (うち国際学会 1件)
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