前年度、MEK阻害薬のtrametinibがin vivoにおいて、単独投与で原発巣、血中循環腫瘍細胞を優位に減少させることが明らかとなった。さらに、代謝拮抗薬との併用により、転移巣にも効果を認めた。ヒト骨肉腫細胞の検討から、MEK阻害薬の効果は、p53の変異、Rb、c-MYCの発現状態には左右されない可能性が示唆された。一方で、MEK-ERKの活性化はヒト骨肉腫臨床検体の39.6%にみられた。また、c-MYC陽性例のうち66.7%にMEK-ERKの活性化がみられた。trametinibの臨床応用には、効果を予測するバイオマーカーが必要であるが、c-MYCとERKの活性化は指標となりうる可能性が示唆された。 マウス骨肉腫細胞のAXT細胞はp53のDNA結合領域に変異がある。p53の機能喪失は解糖系を亢進させ、がん特有の代謝を形づくることに大きく関わることが報告されている。そこで、CRISPR-CAS9によるノックアウトを行った。in vitroでの増殖、薬剤抵抗性は、ノックアウトにより変化は認められなかった。in vivoにおいてもノックアウト細胞は原発巣、転移巣は野生型同様形成した。このため、変異型p53は骨肉腫の治療標的とはならない可能性も示唆された。 メタボローム解析から、転移巣には、乳酸、グリシン、タウリンの産生が原発巣より多く含まれていた。このため、転移巣では解糖系、タンパク合成がより亢進している可能性が示唆される。一方、メタボライトの含有パターンにおける相関係数上、転移巣に近かった非接着培養条件では接着条件に比べ、Hif1alpha関連の遺伝子発現が亢進していた。そこで、Hif1alphaをノックアウトしたところ、in vivoで腫瘍形成が見られない個体があり、Hif1alphaがin vivoの腫瘍形成に必須な可能性も示唆された。現在その機序を解析している。
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