研究課題/領域番号 |
18K07250
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研究機関 | 福岡歯科大学 |
研究代表者 |
岡 素雅子 福岡歯科大学, 口腔歯学部, 客員准教授 (80467894)
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研究分担者 |
関口 睦夫 福岡歯科大学, 口腔歯学部, 客員教授 (00037342)
林 道夫 福岡歯科大学, 口腔歯学部, 講師 (40447371)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | Carcinogenesis / ROS / human iPS cell / Mitochondria |
研究実績の概要 |
[1] 分化初期段階のヒトiPS細胞における内在性酸化ストレスによる発がん解析 内在性ROS生成を制御可能なヒトiPS細胞株、ChiPSC12-M細胞樹立を確認した。 分化初期にROSを生成するChiPSC12-M細胞株を用いてマウスにおける腫瘍形成能を解析した。分化初期のDay1においてTet-Expressを投与したChiPSC12-M細胞株を、4週齢のBALB/cAJcl-nu/nu マウスの背部に皮下接種した(1 x 106-7cells/0.2 ml マトリジェル希釈)。結果、8週間後に非処理群では腫瘍形成を認めなかったが、ROS生成群において6匹中4匹で有意な腫瘍形成を認めた。さらに移植部分の免疫組織化学解析により、細胞増殖のマーカー、Ki-67陽性細胞の比率が非処理群と比較し、腫瘍部分では4.7倍の有意な増加を示していた。 酸化ストレスにより発がん初期に変動するシグナル分子を探索するため、これらの腫瘍形成能をもつChiPSC12-M細胞株において、RNA-seqによる遺伝子発現解析を行った。非処理群と比較しTet-Express処理群において、有意な発現増加を示す27の転写産物と発現低下を示す46の転写産物を同定した。増加を示した転写産物には発生の初期段階で発現が増加し、発がん促進の関与が示唆される転写因子が含まれていた。 同定した発がん初期シグナルの候補遺伝子のいずれも、報告されたcancer driver genesと重ならなかった。さらにパスウェイ解析IPAにより、候補遺伝子群の一部がネットワークを構成し、直接あるいは間接的にcancer driver genes の発現制御に関与することが示唆された。本研究の成果は2019年4月末に OXFORD UNIVERSITY PRESS の ジャーナル、Carcinogenesisに受理された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では、以下の4つの実験を予定している。①内在性の酸化ストレス誘導が、ヒトiPS細胞株の未分化能の維持や多分化能に及ぼす影響を解析する。②持続する内在性酸化ストレスが発がん過程に及ぼす影響を明らかにするため、形質転換能及びヌードマウスの皮下移植による腫瘍形成能を解析する。③実験2で発がんを引き起こした細胞株において、遺伝子発現解析(RNA-seq)によって発がん初期に変動するシグナルを同定する。④様々な分化段階における内在性の酸化ストレスが、腸管オルガノイド形成に及ぼす影響を解析する。2019年4 月現在までの1年間において実験②形質転換能及びヌードマウスの皮下移植による腫瘍形成能を解析、③実験2で発がんを引き起こした細胞株において、遺伝子発現解析(RNA-seq)によって発がん初期に変動するシグナル候補の同定、までが終了し OXFORD UNIVERSITY PRESS のジャーナル、Carcinogenesisに報告した。さらに実験①において、ChiPSC12-M細胞株を7日間Tet-Express存在下で内胚葉に分化させた結果、内在性の酸化ストレス誘導が内胚葉の形成を阻害することを見いだした。分化阻害における内在性ROSの関与を確認するため、ミトコンドリア局在カタラーゼの発現によるROS生成抑制が及ぼす影響を検討した。カタラーゼの発現により内在性ROSが抑制され、結果、コントロール群(Tet-Express/Shield1両方とも非投与)と同程度に分化が改善した。以上により、分化初期における内在性ROS生成がヒトiPS細胞において胚体内胚葉の分化を抑制することが示唆された。本研究の成果は2報目として論文投稿準備中である。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究として、分化制御関連のデータを2報目として本研究開始2年度の2019年中に受理を目指す。2報目は2019年、5月中に投稿が可能である。次に実験③発がんを引き起こした細胞株において、遺伝子発現解析(RNA-seq)によって発がん初期に変動するシグナルを同定する、において見いだした候補因子について発がんにおける役割を、細胞、マウスレベルにおいて解析を進めていく。なお2018年12月の段階で、ヌードマウスの皮下移植による腫瘍形成能の解析と腸管オルガノイド形成に関しての情報供与を頂くために、代表者が所属している先端科学研究センターの教授, 續 輝久教授に研究協力者として参画頂いている。今後の期間で、研究計画④、様々な分化段階における内在性の酸化ストレスが、腸管オルガノイド形成に及ぼす影響の解析を進め本研究課題における論文3報目として受理を目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額に80,053円の持ち越しが生じているが、これは本年度に受理された論文の英文校正料あるいは投稿料の一部として準備していたものである。本研究課題は2018年4月から開始し、11月に第1報をまとめて投稿を開始した。2019年度は本研究課題の進展のためカンザス大に留学しており、助成金の使用は一旦中断している。今後の使用計画としては計画4の分化初期における内在性酸化ストレスが腸管オルガノイド形成に及ぼす影響の解析に予定しており、腸管オルガノイドを用いたヒトがんモデルの構築を予定している。
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