研究課題/領域番号 |
18K07251
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研究機関 | 埼玉県立がんセンター(臨床腫瘍研究所) |
研究代表者 |
神田 浩明 埼玉県立がんセンター(臨床腫瘍研究所), 病院 病理診断科, 科長(兼)部長 (90260067)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 腸内細菌 / 発がん / 代謝 / ACLY / C57BL/B6 / C3H |
研究実績の概要 |
ACLYトランスジェニックマウスを長期観察すると自発腫瘍が多発する。24-30月齢のオス24匹を剖検すると14匹(58%)に血液系腫瘍(リンパ腫・白血病)、7匹(29%)に肺がん、各1匹(4%)に小腸がんと血管系腫瘍が認められた(重複がんは別個に計算。以下同)。特に血液系腫瘍の頻度が高い。これは背景として血液系腫瘍に感受性が高いC57BL/B6マウスを背景に用いたことによる可能性がある。そのため、肝がんや軟部肉腫に対する感受性が高く、血液系腫瘍の発生頻度が低いC3Hマウスにバッククロスを行って自発腫瘍の発生を観察した。オス35匹、メス32匹 計67匹を無処置で15-24月観察すると、オスでは肝がんが12匹(34%)、 リンパ腫が6匹(17%)、小腸がんが2匹(6%)、胃がんが1匹(3%)に認められた。メスではリンパ腫が6匹(19%)、肝がんが5匹(16%)、小腸がんが1匹(3%)に発生した。予想とは異なり、リンパ腫があわせて18%(12/67)の高頻度で発生した。これは肝がん(25%, 17/67)より低頻度であったが、軟部肉腫(発生無し)よりも高頻度だった。ACLYが系統差によらず血液系腫瘍の発生に関与することがわかった。一方、肺がんの発生は全く認められず、肺がんの発生に関してはC57BL/B6マウスに特有であることがわかった。さらにC3Hマウスにおける性差を見てみると、肝がんでは有意差はなかったが(p=0.18, Fisher test) オスに多く発生したのに比べ、リンパ腫では性差を認めなかった。肝がんがオスに好発することはよく知られた事実であるが、リンパ腫は性差においても肝がんと異なったメカニズムが示唆された。 腸内細菌叢は系統によって異なることがわかっている。C3HとC57BL/B6に認められた発生腫瘍の差が腸内細菌叢とどのような関連があるか検討を続ける。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
研究者の移動に伴い、トランスジェニックマウスの移動を行っているが、トランスジェニックマウスの埼玉県立がんセンターへの搬入が、マウスのクリーンアップの遅れにより遅延し、埼玉県立がんセンターでの実験が開始できず、移動前の所属である(公財)がん研究会がん研究所で実験を行っているため。
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今後の研究の推進方策 |
腸内細菌叢と発がんの関連を研究するうえで、コントロールマウスを慎重に選択する必要がある。これは、1. 子供が母親の腸内細菌叢を受け継ぐこと、2. 同じ飼育室で飼育する他のマウスの腸内細菌叢が別の個体の腸内細菌叢に影響を与えること、による。今回、研究者が施設を移動したために、研究の進捗に遅れが生じたが、逆に施設が変わったことにより、現在までACLYトランスジェニックマウスの飼育を行っていなかった飼育室で実験を再開することができるという利点を得た。ACLYトランスジェニックマウスの便に汚染されていない新たな環境で、ACLYトランスジェニックマウスの腸内細菌叢が生後いつから変化を生じるのか、いわゆる"悪玉"腸内細菌はACLYトランスジェニックマウスからコントロールマウスに移るのか、その際に母子関係の影響が出るのかを検討する。トランスジェニックマウスはホモでも生殖能等に全く異常が見いだされず、現在はホモで飼育を行っているが、ヘテロ(F1)マウスにもどして交配した時に、母親がトランスジェニクマウスであるかないかによって腸内細菌叢や腫瘍発生に差が出るか家系図を作成して検討する。また、これら変化が抗生剤投与により抑制されるか、あるいは、離乳後に飼育室を移動することにより防ぐことができるか検討する。別途購入し飼育したC57BL/B6およびC3HマウスについてACLYトランスジェニックマウスと飼育室を変えて飼育した場合と同じ飼育室で飼育した場合に腸内細菌叢や腫瘍発生にどのような変化が出るか検討する。 さらに、C3HマウスとC57BL/B6マウスで腫瘍発生に特徴が認められたことから、これらマウスに共通する"悪玉"腸内細菌があるのか、あるいは両者では"悪玉"腸内細菌は異なっているのか検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
動物搬入が遅れたために解析費用等が翌年度に移行したため。
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