研究課題/領域番号 |
18K07252
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研究機関 | 公益財団法人がん研究会 |
研究代表者 |
岡本 啓治 公益財団法人がん研究会, がん化学療法センター 分子生物治療研究部, 研究員 (30533682)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | テロメア / インターフェロン応答 / 腫瘍形成 |
研究実績の概要 |
テロメアの短いがん細胞株のテロメアを人工的に伸長させたがん細胞をヌードマウスの皮下に移植したゼノグラフト腫瘍では、インターフェロン(IFN)応答遺伝子群の発現上昇が抑制される。本研究の目的は、ゼノグラフト腫瘍形成時に生じる遺伝子発現がテロメア伸長により抑制される分子機構を解明することである。その目的を達成するために、まず腫瘍形成時に見られるIFN応答活性化機構の全体像を明らかにすることとした。腫瘍環境を模倣した三次元(3D)培養法で前立腺がん細胞株PC3を培養し、IFN応答遺伝子群の転写因子として働くSTAT1の活性化を検証したところ、チロシンのリン酸化が亢進していることや、STAT1変異体解析によりこのリン酸化が遺伝子発現に必須であることが明らかとなった。また、テロメア核酸を導入することでこのSTAT1のリン酸化が抑制されたことからテロメアはSTAT1上流に作用することが示された。そこで、siRNAを用いた遺伝子ノックダウンによりSTAT1リン酸化の亢進に関与するシグナル経路を検証したところ、STAT1上流のシグナル経路を同定することができた。 一方で、テロメアによるIFN応答抑制に関わる因子またはシグナル経路を網羅的に探索するために、スクリーニング用の細胞系の確立を行った。IFN応答反応におけるSTAT1の結合配列Interferon Stimulated Response Element(ISRE)の下流にルシフェラーゼ(Luc)またはGFP遺伝子を挿入したベクターを作製した。ISRE-LucをPC3細胞株に導入したところ、3D培養によるLucの発現上昇及びテロメアによる抑制を確認している。今後は阻害剤ライブラリーまたはshRNAライブラリーを用いて関連因子またはシグナル経路の探索を行う予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
テロメアがSTAT1のリン酸化を抑制することで下流の標的遺伝子の発現を制御していることが明らかとなり、さらに3D培養時にSTAT1リン酸化に関与する上流因子を見つけることができた。また、次年度に予定しているスクリーニングを行うための細胞系を確立できたことからも、本研究計画は現在のところ、おおむね順調に進んでいると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
次年度の方針としては、一つはSTAT1リン酸化に関わるシグナル経路のどの因子に対してテロメアが作用しているのかを絞り込み、抑制機構のより詳細な解析を行っていく予定である。さらに、樹立したPC3/ISRE-Luc細胞を用いて、テロメアによる遺伝子発現抑制に関与する因子またはシグナル経路の探索を行う予定である。当初の予定ではISRE-GFPを導入し、shRNAライブラリーを用いてGFPの発現変化をモニターすることで関連因子の探索を行うことを計画していたが、FACSによりGFP陽性細胞をソーティングすることが困難である可能性が示唆された。そこで計画を少し変更し、Lucをモニター遺伝子として用い、阻害剤ライブラリーによるLucの発現変化をLucアッセイで定量的に解析することで関連因子の同定を試みる予定である。所属研究室では、阻害剤ライブラリーを用いた同様のスクリーニング解析によりグアニン四重鎖制御因子の探索を行った実績があり、本研究でも成功が見込まれる。
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