我々はこれまで、人工的にテロメア伸長させたがん細胞をヌードマウスの皮下に移植したゼノグラフト腫瘍で、インターフェロン(IFN)応答遺伝子群の発現上昇の抑制及び、腫瘍形態の分化傾向を見出してきた。本研究では、腫瘍形成時に活性化するシグナル経路と、テロメア伸長による制御の分子機構を解明し、がん細胞がテロメアを短く維持する新たな病理学的意義を明らかにすることを目的とする。 まず腫瘍形成時におけるIFN経路活性化機構について検証を行ったところ、親株由来のゼノグラフト腫瘍でSTAT1のリン酸化が亢進し、テロメア伸長株由来の腫瘍ではそれが抑制されていた。STAT1変異体発現がん細胞を腫瘍環境を模倣した3D培養法で培養・解析し、IFN応答遺伝子の発現上昇に必須なSTAT1リン酸化部位を同定した。また、3D培養時にはRIG-I によりSTAT1のリン酸化が亢進することを見出したことから、テロメア伸長によりRIG-I-STAT1経路が抑制されている可能性が示唆された。 次に、テロメアによって制御されるRIG-I-STAT1経路の活性化と腫瘍形態との因果関係を検証した。CRISPR-Cas9法により樹立したSTAT1欠損がん細胞株を用いてゼノグラフト腫瘍を形成させたところ、分化の形態を示す腺管様構造の形成の促進、未分化マーカーN-Cadherinの低下を示した。さらにテロメア伸長がん細胞株にSTAT1標的因子の一つISG15を過剰発現させると、テロメア伸長株由来腫瘍で見られる腺管様構造が減少する傾向を示した。また、テロメア伸長株由来ゼノグラフト腫瘍では、親株由来腫瘍に比べてISG15の機能の一つであるISG化レベルが低下していた。 以上の結果より、がん細胞はテロメア長を短く維持することでRIG-I-STAT1-ISG15経路の活性化を促進し、それが腫瘍の未分化状態の維持に寄与する可能性が示唆された。
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