研究課題/領域番号 |
18K07256
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
松本 孔貴 筑波大学, 附属病院, 病院助教 (70510395)
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研究分担者 |
長崎 幸夫 筑波大学, 数理物質系, 教授 (90198309) [辞退]
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | BNCT / ホウ素中性子捕捉療法 / 放射線治療 / ホウ素化合物 / ナノ粒子 / EPR効果 |
研究実績の概要 |
今年度は昨年度作成したフェニルボロン酸(PBA)が組み込まれたポリマーナノ粒子(PBA-NP)を作製した。PBA-NPの特性は、表面プラズモン共鳴(SPR)技術、共焦点レーザー走査顕微鏡(CLSM)観察、細胞毒性アッセイなどの一連のin vitro分析で評価した。シアル酸が過剰発現したB16-F10メラノーマ細胞をC57BL6/jマウスの大腿部に皮下移植して作製した担癌モデルマウスを用いて、PBA-NPの有効性及び安全性をin vivoにて評価した。NMRスペクトル法により、ピナコールで保護された合成ポリマーのPBA部分は、透析時の加水分解による脱保護によりナノ粒子の精製中に容易に脱保護できることが確認された。PBA-NPの流体力学的直径は約75 nmであり、血清存在下で少なくとも24時間安定して維持された。SPR分析により、PBA-NPはシアル酸固定化表面への極めて強い選択的結合を示し、ターゲティング効果が保証された。これは、PBA-NPをシアル酸過剰発現がん細胞株と短時間インキュベートすると、細胞膜上に選択的に局在することを示したCLSMの結果と一致した。シアル酸過剰発現B16メラノーマ担がんマウスモデルにより、PBA-NPが非常に強力なBNCT治療効果を誘導することを明らかにした。PBA-NPはBPA-f(24 mg10B/kg)よりも100倍低い有効量(0.24 mg10B/kg)で同等の抗腫瘍効果を示した。毒性評価として、PBA-NP単独処理では初代細胞およびがん細胞株のいずれに対しても顕著な毒性は認められず、またマウスにおいても明らかな体重減少は見られなかった。結論として、PBA-NPはアクティブなターゲティング機能を有する非常に効率的なBNCT製剤として提案可能であると考える。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
既にドラッグデザインは決定し、細胞を用いた物性評価はもちろんのこと、動物を用いた抗腫瘍効果解析、正常組織障害の評価、薬物体内動態の検証を行い、新規ホウ素化合物PBA-NPの有用性とその作用機序の評価も着実に進めてきている。当初予定していた茨城県東海村での照射実験が、加速器開発の遅延により行うことができず、実験の進行に懸念があったが、京都大学複合原子力科学研究所の研究用原子炉の中性子線を使うことで、必要最低限の照射データも取得することができた。
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今後の研究の推進方策 |
新しく開発したホウ素化合物であるPBA-NPの有用性は今年度の実験結果にてほぼ示すことができたと考える。来年度は、その作用メカニズムを明らかにすること及び実臨床に適応するための必要なデータ取得を目指す。特に、既存のホウ素化合物であるBPAに比べ、約100分の1のホウ素-10含有量及び5分の1の腫瘍内蓄積量であるにもかかわらず、同等の抗腫瘍効果を得たことは極めて有用であるが、そのメカニズムを明らかにすることが必須である。我々は腫瘍内のホウ素-10の集積分布、すなわちmicro-distributionがBPAとPBA-NP間で異なるのではないかという仮説を立て、その仮説検証の手法としてCR-39を用いたα-tracking法を選択することで、2つのホウ素化合物の腫瘍内微小分布を明らかにする予定である。また、実臨床に応用するために、より詳細な毒性試験の評価を全臓器的に行い、加えて遺伝的毒性についても評価を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
茨城県東海村にある加速器型BNCTの運用開始が遅れ、当初予定していたを用いた照射実験が最大量行うことができず、その分を2020年度に回したことが原因である。上記装置は既に修理及びコミッショニング作業が開始しており(2020年5月5日時点)、2020年度中に予定した照射実験を行うことは可能であると考えている。
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