研究課題/領域番号 |
18K07258
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研究機関 | 東京医科歯科大学 |
研究代表者 |
梶田 美穂子 東京医科歯科大学, 難治疾患研究所, 特別研究員 (00607442)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 乳がん / がん予防 / オルガノイド / がん免疫 |
研究実績の概要 |
現在のがん免疫療法のターゲットはすでに多数の変異が蓄積した悪性腫瘍であり、その時点からの治療には莫大な医療費がかかり、患者への精神的・身体的負担も大きい。そのため、初期がんの治療やがん予防に繋がるような知見の集積が急務である。本研究では、乳がんをモデルシステムとして、以下のアプローチを行っている 1変異導入オルガノイドの作製とそれに対する免疫反応の解析 初代乳腺上皮を2次元で培養すると形質が変化し間葉系細胞のようになってしまうことから、乳腺組織の形質を維持できるオルガノイド培養の系を確立した。この乳腺オルガノイドにレトロウイルスにてがん遺伝子PIK3CA H1047R, Kras G12D, がん抑制遺伝子p53のドミナントネガティブ変異体p53-DDをそれぞれ導入し、変異オルガノイドを作製した。これらの変異オルガノイドを野生型メスマウスのmammary fat pad に移植し、自然免疫系細胞やT細胞の集積・活性化状態をFACSにて解析した。得られたデータはt-sne解析や免疫組織染色等で多角的に解析し、変異オルガノイドに対する初期の免疫反応を追跡している。 2オルガノイドと免疫細胞の共培養系を用いた可視化への挑戦 「1」ではがんになる以前の変異細胞の段階での免疫反応を多角的に解析するが、免疫反応の開始を可視化するために、変異を導入した乳腺オルガノイドと組織マクロファージ(CX3CR1-GFP+) との共培養の系を用いて変異細胞とGFP+細胞の相互作用をタイムラプスで解析する系を確立した。このアプローチによって、悪性腫瘍に対するがん免疫で解析されるような「新たに集積してきた免疫細胞」ではなく、組織の恒常性を担う組織マクロファージによるがん免疫始動の可能性を検討でき、これまでとは全く違う知見が得られる可能性がある。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまでにがん免疫の始動システムを解析するための変異オルガノイドを複数作製し、その生体への移植、変異細胞への初期の免疫反応をFACSや組織染色を用いて多角的に解析している。また、がん免疫の開始への組織マクロファージの役割を可視化するシステムも構築し、現在解析中である。さらに、ウイルス感染を介さずに変異細胞と組織常在性マクロファージとの相互作用を初期免疫反応の可視化が可能になるLgr5-creERT2: LSL-tomato: APCfl/fl:CX3CR1-GFP マウスの作成も完了しつつあり、研究はおおむね当初の予定通り進んでいる。
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今後の研究の推進方策 |
本年はさらに多様な変異オルガノイドに対する免疫反応を解析するため、Her2、HRas G12V、 p53 R270H、Twistなどを発現する乳腺オルガノイドを作製する。これらの変異細胞に対する免疫反応をFACSや組織染色で解析し、各種変異細胞に対する免疫反応を比較・解析する。また、それらの変異をCX3CR1-GFPgfp/+マウスの乳腺オルガノイドに導入し、組織マクロファージと変異細胞との相互作用をタイムラプスや免疫染色などで解析する。さらにLgr5-creERT2: LSL-tomato: APCfl/fl:CX3CR1-GFP マウスの作製を完了させ、このマウスの乳腺オルガノイドをタイムラプス等によって解析する。以上の研究を通じて、がん免疫の始動を効率よく誘導する変異や、がん免疫の初動を担う免疫細胞の同定、その活性化のメカニズムなどを解明していく。
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次年度使用額が生じた理由 |
当該年度はタイムラプスで使用する顕微鏡の故障が相次ぎ、代替機が入ったものの実験系が安定せずタイムラプスを行う機会が予定よりも少なかった。そのためタイムラプスのセットアップにかかる費用(オルガノイド培養関連試薬、ウイルス感染関連試薬、ガラスボトムディッシュ等購入費)が減ったが、次年度は積極的にタイムラプスの解析を行っていく予定であり、そのセットアップに次年度使用額を使用する予定である。
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