研究実績の概要 |
免疫チェックポイント阻害剤やCAR-T療法などのがん免疫療法は目覚ましい成果を挙げている一方、そのターゲットはすでに多数の変異が蓄積した悪性腫瘍であり、患者の精神的・身体的負担も大きく、高額な医療費も問題となっている。そのため、初期がんの治療やがん予防に繋がるような、初期もしくは前がん段階の知見の集積が急務である。一方、発がんの初期段階でがん免疫がどのように始動するのか、そのタイミングやメカニズム、さらにがん免疫の始動に関わる免疫細胞等はわかっていない。本研究では、がん免疫を始動する細胞として組織常在性マクロファージに着目し,乳腺オルガノイドを利用した新しい実験系を確立して、前がん細胞と組織常在性マクロファージの相互作用を可視化することに成功した。その結果、HrasV12を発現した細胞は、乳腺組織常在性マクロファージによって感知され、貪食されることがわかった。一方、p53ドミナントネガティブ変異体や、Twistで変異した細胞は貪食されることはなく、前がん細胞の状態によって、組織常在性マクロファージの反応性が異なることが示唆された。本研究により、組織常在性マクロファージががん免疫の始動に関わる免疫細胞である可能性が示された。今後は、組織常在性マクロファージが正常細胞とHrasV12細胞をどのように見分けて貪食するのか、そのメカニズムの解明や、組織常在性マクロファージによる前がん細胞の貪食を促進できるようなシステムの開発に繋げていきたい。また、他の組織におけるがん免疫の始動にも組織常在性マクロファージが関与しているのか、またこの組織常在性マクロファージの反応がその後のT細胞などを介したがん免疫の活性化につながるのか等についても明らかにし、がん免疫の統合的理解に繋げていきたい。
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