研究課題/領域番号 |
18K07265
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
多根井 智紀 大阪大学, 医学系研究科, 助教 (80771518)
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研究分担者 |
PRADIPTA AMBARA 国立研究開発法人理化学研究所, 開拓研究本部, 基礎科学特別研究員 (90631648)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 乳癌 / 術中迅速診断 / アクロレイン |
研究実績の概要 |
【意義】本邦では乳癌に対する乳房温存手術の際、乳腺切除断端の術中迅速病理診断(凍結標本)が一般的に施行されているが、多くの労力を必要とする。そこで、我々は、乳腺切除断端の生組織標本を用いて癌細胞の有無を正確、かつ、短時間で診断する方法を開発すべく本研究を実施した。 【具体的内容】癌細胞の生体染色には、癌細胞などの酸化ストレスの多い細胞で高発現するアクロレインに有機反応を起こして細胞に取り込まれる試薬“click-to-sense”probe 1を使用した。細胞実験において、本試薬を用いると正常細胞株に比して癌細胞株が有意に濃染されることを確認した。次に乳癌患者より採取された乳 癌組織30例(浸潤癌20例、非浸潤癌10例)と正常乳腺組織30例に対して本試薬とHoechst 33342+33258による二重染色を5分間行い、PBSで洗浄後、染色された生組織を蛍光顕微鏡にて観察・測定した。結果として、生組織片全体の染色像を弱倍率(20倍率)で撮影解析したところ、本試薬は正常乳腺組織に比して乳癌組織を濃度依存性に明確に濃染し、90%以上の感度・特異度で乳癌組織と正常乳腺組織を判別できることが分かった。また、強倍率(200倍率)で観察したところ、二重染色によって細胞単位(癌細胞(浸潤癌、非浸潤癌)、正常乳腺上皮細胞等)での病理学的評価が可能であった。 【重要性】“click-to-sense”probe 1を用いることにより乳癌組織と正常乳腺組織を高精度 に鑑別することが可能であった。以上の結果から本試薬とHoechstによる二重染色が乳腺切除断端の術 中迅速診断に応用可能であることが示唆された
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
癌細胞などの酸化ストレスの多い細胞で高発現するアクロレインに有機反応を起こして細胞に取り込まれる試薬を、理化学研究所の田中研究室より提供されており、本試薬が癌細胞の生体染色に非常に有効であることが判明しました。 細胞実験(in-vitro)にて、乳癌細胞株は、正常細胞株比べて有意に染色されることを判明することができました。さらに、in-vivoにて、乳癌患者より採取された乳癌組織(浸潤癌、非浸潤癌)と正常乳腺組織に対して、本試薬とHoechstによる二重染色を5分間行い、洗浄後、生組織を蛍光顕微鏡にて観察・測定し、生組織片全体の染色像を弱倍率(20倍率)で撮影解析したところ、本試薬は正常乳腺組織に比して乳癌組織を濃度依存性に明確に濃染し、90%以上の感度・特異度で乳癌組織と正常乳腺組織を判別できることが分かりました。強倍率(200倍率)の観察では細胞単位での病理学的評価が可能でした。つまり、本試薬を用いることにより乳癌組織と正常乳腺組織を染色濃度と形態学的に併用して、想定以上の高精度に鑑別することが可能でした。以上の結果から本試薬とHoechstによる二重染色が乳腺切除断端の術中迅速診断に応用可能であることが分かりました。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究としては、本試薬による乳房温存手術の切除断端に対して、実際の術中迅速病理検査に活用できるようにする為、以下の研究に取り組んでいます。 本研究の乳腺生組織の測定法が、微小な乳癌病変に対しても、凍結標本による病理組織診と遜色ない診断精度を有するか確認する研究を行っています。 微小病変での本測定法の有用性が証明された後、本試薬の乳腺切除断端の術中迅速診断における有用性を、今後、大阪大学医学部附属病院にて臨床試験を行い、検証する予定です。 また、大阪大学大学院・情報科学研究科ゲノム情報工学講座と共同研究にて染色組織の撮影画像の癌測定診断を効率的に行う為、人工知能(AI)の画像診断技術を用いて解析を行う予定です。さらに、顕微鏡・精密測定機器メーカーなど共同研究を行い、本測定方法にて実臨床に応用可能な機器の開発を行うことも計画しています。本研究は、今後、乳癌手術標本の乳腺断端の生組織に対して試薬を染色し癌細胞の診断を行う為の基礎的・臨床応用を目的とした研究として位置づけられています。
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