研究課題/領域番号 |
18K07266
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研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
小林 隆 神戸大学, 医学研究科, 特命助教 (90709669)
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研究分担者 |
西海 信 神戸大学, 医学研究科, 医学研究員 (20514706)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | メタボロミクス / 膵疾患 / IPMN / バイオマーカー |
研究実績の概要 |
本研究は、血液メタボロミクスによって、膵がん、および、膵がんリスク疾患である膵管内乳頭粘液性腫瘍(IPMN)に対するバイオマーカーを開発することを主目的としている。前年度には多施設から収集したIPMN患者24例と健常者58例の血漿を用いて代謝物分析を行ない、膵がん代謝物バイオマーカー候補16成分中10成分に有意差を認め、IPMN患者においても膵がんバイオマーカー候補物質と同様の物質がバイオマーカーとなり得ることを見出した。ただしメタボロミクスにおいては検体採取時の取り扱いによってチューブ内で代謝が進行し、結果に大きな影響を与えることが多い。そこで、血液採取から保存までの操作における時間や温度の条件を種々検討し、最も安定する条件を見出し、標準操作手順とした。そして、計画を一部前倒しし、標準操作手順に従って前向きに収集した新たな検体セットを使用し、IPMN患者においても膵がん患者に見られるような血中代謝物濃度変動が見られるかを再検討した。検体には単施設で収集した膵がん患者44例、IPMN患者24例、健常者46例の血漿を用いた。分析対象とした代謝物は、Threonine、Methionine、Arabinose、Asparagine、Xylitol、Glutamine、1,5-Anhydro-D-glucitol、Lysine、Histidine、Tyrosine、Inositol、Uric acidの12成分とした。分析にはガスクロマトグラフィ質量分析を用い、内標準物質による補正と安定同位体による検量線を併用し、定量を行った。その結果、Lysineにおける膵がん群、IPMN群、健常者群の平均血中濃度は順に188.76、227.77、245.64(μmmol/L)となり、悪性度の高さの順に濃度差があることが確認された。他にも4成分で同様の傾向が明らかとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
予定では今年度までに過去の収集検体からの分析と診断可能性評価、および、標準操作手順の策定を計画していた。この計画は、昨年度までに概ね着手することができていたため、今年度はこれを継続するとともに、次年度に予定していた新検体セットによる検証を一部開始することができた。
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今後の研究の推進方策 |
次年度には、今回既に分析を始めた標準操作手順下の検体セット分析を継続していく。分析を複数回繰り返し、膵がん、IPMN、健常者における濃度分布を正確に評価する。また、IPMNにおいては、臨床ガイドラインに基づくリスク分類を行い、IPMNのなかでも高リスクIPMNと低リスクIPMNで血中代謝物濃度に特色がみられるかを検討する。次に、分析結果を用いて、膵がん患者とその前がん病変である高リスクIPMN患者を健常者と判別するための回帰式を多変量解析を用いて作成する。この判別式の診断精度をROC曲線解析における曲線下面積で検証する。さらに、その成果が他の検体においても適応できるかを、別の独立した検体セットを用いて再検証する。また、得られた結果を代謝経路上にマッピングすることで、病態に関与する代謝経路を抽出する。これに文献的な考察も加えることで、バイオマーカーがもつ生理学的意義の仮説を立てる。可能であれば、疾患モデルマウスを用いた動物実験や培養細胞実験にも着手し、メカニズムを検討する。また、研究成果を国内外の学会、研究会、論文で広く発表することで、第三者からの意見を研究に活用し、共同研究による研究深化の機会も探索する。
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次年度使用額が生じた理由 |
分析に用いる消耗品は既に所有していた分があり、物品費は予定よりも少額になった。分析は小規模であったため補佐員を雇用しなかった。次年度では分析に供するサンプルサイズが拡大する計画であり、物品費、人件費として次年度へ繰り越し、計画通り研究を遂行する。
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