研究実績の概要 |
成人T細胞性白血病・リンパ腫(ATLL)は一旦発症すると治癒することが極めて困難であり、有効な治療法の模索が続いている。しかもHTLV-1キャリアのうちわずか5%しか発症せず、その5%を早期に検出するための指標を見出す必要がある。そのためにも本疾患の発症と病期の進行に関わる病態解明が必須であることから、HTLV-1キャリアとATL患者の末梢血検体に認められるDNAメチル化異常を解析した。網羅的遺伝子解析により選定した8つの遺伝子(p15,p16,p73,hMLH1, MGMT,DAPK,HCAD,SHP1)のDNAメチル化異常の有無をMSP法を用いて検出した。その結果、ATL発症例では発症前から発症時にかけてDNAメチル化異常頻度が増加することを見出した。今回選定した8つの遺伝子のいずれかのDNAメチル化異常がATLの発症に特に重要な可能性も考えられる。さらに、同一患者検体における追跡調査例では、病態に連動してDNAメチル化異常も変動しており、臨床パラメーター(HTLV1ウイルス量、異常リンパ球、sIL2R)との関連性も示唆された。これらの臨床パラメーターにおいてメチル化遺伝子数のオッズ比は2.16となり有意となったことから、臨床パラメーターの中でもメチル化遺伝子数がATLの発症に深く関与していることが示された。 次に、DNAメチル化異常を発症予測マーカーとして臨床検査に応用するために、培養細胞を用いて検討を行った。HTLV-1キャリアからATLの各病期段階に相当する数種の細胞株においても、臨床検体と同様にHTLV-1キャリア該当細胞株よりもATL 該当細胞株の方がDNAメチル化異常の頻度が高く、DNAメチル化異常を示す遺伝子パターンが類似していた。 本研究により、DNAのメチル化異常はATL発症の早期診断、新規治療法や予防法の標的対象になり得る可能性が示唆された。
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