研究課題/領域番号 |
18K07270
|
研究機関 | 熊本大学 |
研究代表者 |
古嶋 昭博 熊本大学, 生命資源研究・支援センター, 准教授 (20161903)
|
研究分担者 |
野口 和浩 熊本大学, 大学院生命科学研究部(医), 助教 (90578816)
|
研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
|
キーワード | チェレンコフ光イメージング / 分子イメージング / ベータ線放射性同位元素 / ガンマ線放射性同位元素 / シンチレーション |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、生体内の深部での放射性分子プローブの検出能力を向上させるために、チェレンコフ光の欠点を補完するハイブリッド光イメージング(HLI)の最適化を図り、マウスなどの小動物実験へ応用する技術を開発することである。本研究実施2年度目の当初計画は、HLIに重要なガンマ線検出のための最適化を行う技術を開発することであった。2018年度において、ベータ線を放出する2つの放射性同位元素I-131とP-32のエネルギー特性から得られたチェレンコフ光強度の差はベータ線のエネルギーに比例するものであり、P-32の方が深部領域の信号検出に優れることがわかった。一方でガンマ線を同時に放出するI-131にHLIを適用することによりP-32と同等かそれ以上の光検出が期待されたため、これまで本研究者が使用した液体シンチレータによる光イメージングを行ったが、ガンマ線の低い検出効率のため予想されたシグナル増強効果は得られなかった。そこで、低エネルギーガンマ線のみを放出するI-125を用いて液体シンチレータによるシンチレーションイメージングを行ってみると、液体シンチレータでもI-125のような低エネルギーガンマ線の検出が高くなることがわかった。この結果はガンマ線の検出効率がさらに優れる固体シンチレータの使用が最適であることを示唆する重要な成果になったと考えている。さらに、小動物生体内の真の放射能分布を求めるために放射能測定器(ドーズキャリブレータやガンマカウンタ)が用いられるが、I-125を使用した当該年度の研究遂行中に、I-125のような低エネルギーガンマ線に対しては試料測定容器の材質が放射能定量に大きく影響することが明らかになり、これは今後の研究に重要な副次的な知見となった。なお、研究分担者には、初年度に引き続き、今後の小動物イメージングのためにラットのよる予備実験を行ってもらった。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
当該年度は、この研究実施計画3年間のうちの2年度目であった。2018初年度に行ったータ線を放出する2つの放射性同位元素I-131とP-32によるベータ線のみのチェレンコフ光イメージングの特性の知見を基にして、当初の2019年度計画では、ガンマ線を従来よりもさらに効率的に検出できる固体シンチレータを用いて、液体シンチレータに代わるHLIの改良と最適化を目指していた。しかし、適当な固体シンチレータの入手が困難であったために、研究に遅れを生じている。また、ガンマ線のみを放出するI-125を従来の液体シンチレータにより光イメージングを試みていたが、I-125試料の放射能調整のための定量測定に問題があることがわかり、その解決の対応にあった。この原因は、放射能定量測定時の試料測定容器の材質の種類(ガラスやプラスチックなど)の違いによるものであることが副次的に明らかになった。
|
今後の研究の推進方策 |
本研究の主目的は、従来のベータ線によるチェレンコフ光検出にガンマ線によるシンチレーション(蛍光)を組み合わせて生体内の深部情報を増強するハイブリッド光イメージング(HLI)の最適化の開発である。その目的を達成するためには、従来の液体シンチレータに代わる固体シンチレータの導入が不可欠であることから、今後適当な固体シンチレータを入手して当初の計画を実行する。また、本研究に必須の正確な放射能定量測定に伴う問題がこれまでの実験中に副次的に明らかになったために、今後この問題も低エネルギーガンマ線を出す放射性同位元素(I-125, I-123, Cs-137など)を用いて解決しながら、実験を円滑に遂行していきたい
|
次年度使用額が生じた理由 |
本研究の実施計画の初年度(2018年度)は、ベータ線放射性同位元素より発生するチェレンコフ光の発光機構に関する基礎的な物理特性を調べるために紫外線・可視光線の分光光度計を整備する予定であったが、予算内で措置できる適当な機器がなかったため購入ができなかった。また、チェレンコフ光の観測実験のためにベータ線を放出する2つの放射性同位元素I-131とP-32を購入したが、予定していた放射性同位元素Cs-137の希望する放射能量と高価格および長い納入期間により入手が困難であったことも重なり購入を見送ったために前年度に未使用額が生じた。この2018年度未使用額と2019年度額を合わせた助成金により、高額の放射性同位元素および研究遂行に必須の固体シンチレータの購入を計画したが、適当な材料が入手できなかった。さらに当該研究に必要な情報収集や学会参加が新型コロナウイルスの影響により遂行できなかったために当初予算に残額が生じた。今年度において、これらの問題(放射性同位元素購入や適切な材料の探索と購入など)を解決しながら2年目の当初計画と合わせて円滑な執行に努める。
|