本年度は、本研究計画の2つ目の目的である「疲弊化した集団を高頻度に含むCD28 を有するCAR-T細胞をモデル系としたCAR-T細胞疲弊化の回避方策」について検討を行った。CAR-T細胞疲弊化の回避方策として、サイトカインの添加および転写因子X(公表前のため、因子名はXとした)の共発現を検討した。作製したCAR-T細胞の疲弊度を解析するために、疲弊マーカー(PD-1、LAG-3、Tim-3)の発現パターンを指標として比較解析を行った。PD-1+LAG-3+Tim-3+の疲弊細胞集団の割合は、転写因子Xの共発現により約50%減少した。また、サイトカインIL-7およびIL-15の添加条件でもIL-2添加条件に比べ、疲弊細胞集団の割合は約50%減少した。さらに、IL-7およびIL-15添加条件において転写因子Xを共発現させると、疲弊細胞集団の割合はIL-2添加条件に比べ約80%減少した。しかし、IL-7およびIL-15添加条件では細胞の増殖が非常に悪く、十分な細胞数を得ることが難しかった。また、これらの細胞について、CD45ROおよびCCR7の発現パターンを指標としてメモリー表現型の解析を行ったところ、IL-2添加条件で転写因子Xを共発現させると、ナイーブ様(CD45RO-CCR7+)やセントラルメモリー型(CD45RO+CCR7+)の細胞集団が優位に増加していた。したがって、IL-2添加条件で転写因子Xを共発現させることで、疲弊細胞集団の割合が少なく、メモリー型優位なCAR-T細胞を作製できると考えられた。以上の結果から、本研究計画の目的である「CAR-T細胞疲弊化の回避方策」を見出すことができた。今後、さらに詳細な機能および性状の解析を行い、その特性を明らかにしていく予定である。
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