研究課題/領域番号 |
18K07274
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研究機関 | 東京女子医科大学 |
研究代表者 |
小林 博人 東京女子医科大学, 医学部, 准教授 (80318047)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | ガンマ・デルタ型T細胞 / 癌性腹膜炎 / 癌免疫細胞療法 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、癌性腹膜炎による難治性腹水に対し、新たな治療戦略として癌性腹水中のガンマ・デルタ型T細胞を用いた癌免疫細胞療法を開発することである。COVID-19感染症蔓延のため、腹水濾過濃縮療法(CART)の対象となる入院患者が少なく、検体となる癌性腹膜炎による腹水の確保に難渋した。2020年に検体確保目的で研究参加施設を増やしたが、2症例の登録に留まった。検体を処理し、細胞成分を精製し凍結保存した。癌性腹水中のガンマ・デルタ型T細胞の増殖効率を上げる方策として、1. 癌性腹水中の癌細胞を減らす、2. ベータリン酸三カルシウム(βTCP)を用いて、癌細胞の増殖を抑制し、ガンマ・デルタ型T細胞の活性化に必要なマクロファージを活性化させる事を行ってきた。方策1および2を行うことで、それぞれ2倍程度の増殖率改善を得られている。癌性腹膜炎の治療戦略として、CARTで得られたガンマ・デルタ型T細胞をex vivoで培養し、腹腔内に投与する事を検討している。ex vivoで培養したガンマ・デルタ型を腹腔内に投与する場合に問題となるのは、癌性腹水に含まれる抑制性成分の関与である。本年は、培養したガンマ・デルタ型T細胞が、腹水の存在下で期待されるような細胞障害活性を維持できるかを検討した。標的細胞として卵巣癌細胞株のSKOVを用い、腹水の存在下でCD107aを指標とした脱顆粒が見られるかをフローサイトメーターで解析した。腹水はCART後の約10倍に濃縮された腹水を用いて、腹腔内に投与された場合と同条件となるようにした。濃縮腹水ありとなしで比較した場合、脱顆粒ガンマデルタ型T細胞の割合は、一部割合が減少した症例もあったが、ほぼ変化は無いことがわかった。このことは、ex vivoでの効率のよい培養系を確立することで、癌性腹膜炎の治療に腹腔内投与が合目的である事が示唆されるものと思われた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究の目的は、癌性腹膜炎による難治性腹水に対し、新たな治療戦略として癌性腹水中のガンマ・デルタ型T細胞を用いた癌免疫細胞療法を開発することである。癌性腹膜炎の症状緩和に腹水濾過濃縮療法(CART)は有用であり、保険適応された治療方法である。CART処理の段階で、濾過カラムにより腹水から細胞成分が取り除かれ破棄されるが、その細胞成分に含まれるガンマ・デルタ型T細胞を治療に用いることが可能かどうかを検証してきた。末梢血と比較すると、腹水中のガンマ・デルタ型T細胞は、増殖能が低いことがわかり、臨床試験に供するためには、培養方法の改良が必要であることがわかった。腹水に含まれる癌細胞の多寡がガンマ・デルタ型T細胞の増殖率に影響を及ぼすことがわかり、あらかじめナイロンウールで処理し、癌細胞を減らすことで増殖率を向上されることが可能となった。さらに、培養効率を上げるため、培養系にβTCPを加える方法を検討した。これは癌細胞の増殖を抑制し、ガンマ・デルタ型T細胞の活性化に必要な単球系の細胞を活性化させる作用があり、増殖率の向上を見出した。次に腹水から調製したガンマ・デルタ型T細胞も、癌細胞に対して細胞障害活性を有する事を検証した。腹水中には、免疫を抑制する様々な液性因子があり、そのような環境下でもガンマ・デルタ型T細胞が細胞障害活性を有するのかを検証した。本来は、患者より得られた腹水を用いて、さらに検証が必要であるが、新型コロナ感染症の蔓延のためCARTの対象となる患者さんが少なく、症例のリクルートに難渋しているため、一部の研究は健常人の末梢血を用いており、やや進捗が遅れている状態である。
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今後の研究の推進方策 |
11症例の細胞が凍結保存してあるが、CARTで得られる細胞数には限りがあるため、引き続き症例の確保を行う。これまでに得られた知見に基づき、凍結保存してある検体を用いて培養効率の向上が得られるのかを検討し、臨床応用へ向けて培養方法を確立させる。また、引き続き腹腔内投与においてex vivoで培養したガンマ・デルタ型T細胞が癌細胞に対して細胞障害活性を示すのに障害となる因子の探索を行なっていく。
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次年度使用額が生じた理由 |
検体数確保のため得られた患者検体は、凍結保存し、実験に供するようにしている。今年度は、患者検体を使用する前に、健常人の検体を用いて、条件等を決めるための予備実験のため、新たに試薬や器具の購入はほとんど必要としなかった。来年度は凍結保存した検体を用いて、検体数を揃えて行うため新規に試薬や器具の購入が必要である。
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