本研究の目的は、難治性の癌性腹水に対し、新たな治療戦略として腹水中のガンマデルタ型T細胞を用いた癌免疫細胞療法を開発することである。癌性腹水の症状緩和には、腹水を穿刺採取し、中空糸濾過カラムを通して癌細胞を含む細胞成分を除去後、蛋白を濃縮して患者に静脈投与する腹水濾過濃縮再静注法が有用である。本研究では濾過カラムからガンマデルタ型T細胞を培養する方法を検討した。私たちは末梢血単核球より1x10の9乗から10の10乗個のガンマデルタ型T細胞を培養する方法を確立しており、免疫細胞療法として臨床研究を行っている。また、末梢血中のガンマデルタ型T細胞の多寡が予後因子となることを報告した。本研究期間において腹水中のガンマデルタ型T細胞を免疫細胞療法に供するに十分な細胞数を得る方法を検討した。予備実験において、腹水中のガンマデルタ型T細胞も末梢血同様に培養できるが、臨床研究に供するに十分な数をえるためには、大量培養が可能な新規の培養方法の開発が必要である。私たちは、二つのアプローチで腹水中のガンマデルタ型T細胞の活性化培養法の開発をした。一つは、活性化剤の検討である。二つのピロリン酸系抗原と含窒素ビスホスホン酸のプロドラックを用いて検討した。もう一つのアプローチは培養環境の検討である。腹水の微小環境中で疲弊状態となっているガンマデルタ型T細胞を培養する際にPD-1とPD-L1を抗PD-1抗体で遮断することで増殖能が回復するかどうか検討した。また、抗原提示細胞となる単球系細胞を活性化するためにβ-T C Pを用いて培養し増殖能が高まるか検討した。また、腹水中に含まれる癌細胞を減らすことで増殖が高まるかを検討した。それぞれのアプローチで増殖力の改善が得られたが、含窒素ビスホスホン酸のプロドラックを用いた場合が、最もガンマデルタ型T細胞が純度高く、また細胞数も最も多く得ることが可能であった。
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