研究課題/領域番号 |
18K07275
|
研究機関 | 日本大学 |
研究代表者 |
藤原 恭子 日本大学, 歯学部, 准教授 (40595708)
|
研究分担者 |
尾崎 俊文 千葉県がんセンター(研究所), 発がん研究グループ DNA損傷シグナル研究室, 室長 (40260252) [辞退]
|
研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
|
キーワード | ポリエチレングリコール / 神経芽腫細胞 / 呼吸鎖複合体 |
研究実績の概要 |
前年度までの研究により、PEG-Xの標的がミトコンドリアの電子伝達系である可能性を示唆するデータを得たため、その検証実験としてPEG-X投与後の細胞の酸素消費量をSeahorse Bioscience XFp extracellular flux-analyzerを用いて測定した。その結果、神経芽腫細胞株SK-N-ASおよびNB9、ヒト正常線維芽細胞HDFのいずれの細胞においても、1uM のPEX-Gの投与直後より細胞の酸素消費量が有意に低下した。またこの低下は脱共益剤FCCPを添加しても回復しなかったことから、PEX-Gは複合体I~V のうちV 以外のいずれかの機能を阻害している可能性が強く示唆された。そこで次に、Cayman 社のMitoCheck アッセイキットを用いて、PEG-X投与時の複合体I~IVの活性を測定した。その結果、PEG-Xは複合体I の反応を阻害するが、複合体Ⅱ、Ⅲ、Ⅳには影響を与えないことが判った。次の実験として、PEG-Xが複合体I に対する阻害効果を持つことを再検証するために,clear native gel 電気泳動法により呼吸鎖複合体の分離を行い、ゲル内にて複合体I の活性を調べる実験を試みた。SK-N-AS細胞よりミトコンドリアを抽出し、その溶解液を電気泳動にて展開したが、複合体I の分離がうまく行かず、PEG-X存在下での活性変化の検討が困難であった。現在条件を再検討して実験を続けている。以上の結果より、PEG-Xが数分以内の短時間で細胞内に取り込まれ、細胞の酸素呼吸を阻害する活性を持つことが証明できた。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
令和元年度に行った研究により、PEG-Xが細胞の呼吸を阻害すること、そして具体的にはミトコンドリアの呼吸鎖複合体を阻害する機能があることが判明した。更に、化学発光を利用した個々の複合体の機能解析から、PEG-Xが複合体I に対し特異的な阻害効果を示すことを見出した。clear native gelを用いた複合体Iの機能解析は今のところ成功していないが、現時点での結果だけでもPEG-Xが複合体I の機能を阻害する働きを持つことが強く示唆される。当初予定していた、糖質制限食での飼育条件下におけるPEG-Xの抗腫瘍効果を検討する実験については時間の都合上間に合わず実行できていないが、PEG-Xの作用標的を同定できたという点から、実験は概ね順調に進んでいると考えた。
|
今後の研究の推進方策 |
前年度の時点でまだ成功していないclear native gel 電気泳動法を用いた複合体I の活性測定を再試行する。電気泳動の画像から、ミトコンドリアの単離自体が上手くいっていない可能性があるため、SK-N-ASだけでなくNB9からのミトコンドリア抽出も検討する。また、ミトコンドリアの抽出プロトコールを見直すなどの改善も行う。加えて、前年度までの研究結果から、PEG-Xは腫瘍細胞に対して強い殺細胞効果を示す一方、正常細胞に対してはほとんど障害性を示さないということが判っていたが、一方でPEG-Xによる酸素消費量の変化には腫瘍細胞と正常細胞の間で顕著な差は見られなかった。その理由は現時点では不明であるが、低ATPに対する耐性が腫瘍細胞では低い、低ATPの際に動くシグナル伝達系に何らかの違いがあると言った可能性が考えられる。そこで、今年度はPEG-Xが腫瘍細胞特異的に殺細胞効果を示す分子機序を解明するために、ATP濃度の低下により活性化するAMPK分子のリン酸化レベルやその下流シグナルがPEG-X投与後どのように変化するか解析し、腫瘍細胞と正常細胞の間で何らかの違いがあるか比較検討を行う。 また、通常食で飼育した状態でPEG-Xが抗腫瘍効果を発揮することを一昨年度に確認しているので、今後は糖質制限食で飼育した際にPEG-Xによる抗腫瘍効果が更に増大するかどうか検討を行う。
|
次年度使用額が生じた理由 |
本年度は動物実験を行う予定であったが、時間の都合上実行できなかった。そのため動物の購入費、飼育料、飼料等がかからず、繰越金が発生した。また、flux-analyzerを用いた細胞の酸素消費量の測定実験や呼吸鎖複合体の活性測定実験は難易度が高く、試行錯誤を何度も行うことが予想されたため、多めの予算を計上していたが、想定よりも失敗が少なく、キット・試薬の購入が最低限で済んだことも繰越金発生の原因となった。令和元年度の繰越金と令和2年度の助成金を合わせて、ミトコンドリア抽出方法の検討、clear native gel 電気泳動法を用いた複合体Iの機能解析、AMPKやその下流シグナルの活性解析、動物実験による糖質制限食条件での9bwの抗腫瘍効果の検討を行う。
|