がん組織を構成する細胞は均一では無く、異なった性状を持つ細胞群から成るヘテロな集団であることが知られている。本課題は、「当該幹細胞集団の詳細な性状の理解」、「特徴的な高発現遺伝子の網羅的探索」、さらに、がん幹細胞を標的とするがん治療法の開発を目指した「新規な治療標的遺伝子の発見」を目標に実施された。 MinマウスDSS誘導大腸発がんモデルを用い、がん部を構成する上皮細胞群からLgr5陽性大腸がん幹細胞集団を抽出、当該細胞群をシングルセルRNA-seq法を用いて解析した。得られた遺伝子発現プロファイルに基づき、増殖型及び休止型、2種の細胞群に分類する事に成功した。さらにここで見いだされた細胞多様性の大腸発がんに伴う変化を解析し、吸収系及び分泌系細胞群それぞれの様々な分化段階に於ける細胞分布どのように変化するのか、さらに正常幹細胞はどのようにがん幹細胞へと変わってゆくのかを遺伝子発現レベルで明らかにし、大腸がんの発生過程で重要な役割を果たすと考えられる遺伝子の候補を複数得た。さらにPDXモデルによる抗がん剤試験を行い、薬剤抵抗性を示すがん幹細胞集団の性状、さらに薬剤耐性の獲得に重要なマスター転写因子としてPROX1を同定することに成功した。令和2年度の研究計画に於いては、これまでの研究成果により得られた知見に基づき、薬剤耐性を人為的にコントロールし大腸がんの根治療法の開発へとつながる基礎研究を展開した。我々が見出した薬剤耐性マスター転写因子であるPROX1の標的遺伝子をRNA-seq法を用いて網羅的に解析し、がん細胞に薬剤耐性を与えるエフェクター因子の探索を行った。現在エフェクター因子候補遺伝子が複数得られており、それぞれを遺伝子破壊し薬剤耐性に及ぼす影響を評価中である。
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