研究実績の概要 |
我々はがんワクチン研究において興味深い特徴をもつがん細胞亜株を見出した(Abe, Wadaら, Hum Cell, 2016)。BALB/cマウス乳がん細胞株4T1をX線照射処理の後、BALB/cマウスに“がん細胞ワクチン”として接種し、その後生きた4T1細胞を移植する実験を行った。ATCCより入手した4T1細胞株(4T1-A)にワクチン効果はみられなかったが、偶然見出した4T1亜株(4T1-S)は、顕著なワクチン効果を発揮した。この両細胞株の差異を解析することにより奏功するがんワクチンを開発できると考えた。4T1-Sワクチンが奏功する機序は何か。無効ながん細胞ワクチンはどうしたら有効化できるか。この2点が本研究課題の核心をなす学術的「問い」である。 細胞ワクチンが奏功する4T1-Sでは、放射線照射後に免疫応答に関与する因子の発現が誘導されることを見出した。4T1-A/-S間でみられるワクチン効果の差異は、この産生因子の相違による可能性が考えられた。RNAseq解析の結果、X線照射後の4T1-SでFPKM>1かつX線照射後の4T1-Aよりも5倍以上の高発現遺伝子として高発現順にCxcl10、Ccl5等が抽出された。Cxcl10、Ccl5等のそれぞれの因子について強制発現細胞等を用いた検討を行ったが、それぞれ単独ではワクチン効果の発現に影響を及ぼさなかった。従って、より統合的に細胞の表現型を変化させる因子が重要である可能性を考え、Iirg(innate immune related gene)遺伝子群に着目した。Iirg1は自然免疫に関連するタンパク質である。4T1-SからIirg1をノックアウト(KO)した株、4T1-AにIirg1を強制発現させた株を作製し、ワクチン実験を行ったが、Iirg1のKO、強制発現はいずれもワクチン効果に影響を及ぼさなかった。
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