研究実績の概要 |
多くの消化器癌細胞においてEGFR経路のシグナル活性化ががんの発生、進展に関与している。本研究ではKRAS変異によって生じている異常シグナルを分子標的薬を用いて抑制し、同時にMDM4・MDM2-siRNAを併用してp53の活性化を誘導することにより、相乗的な腫瘍増殖抑制効果が得られるかを検証し、新しい消化器癌の治療法の開発の可能性を検討した。 癌遺伝子MDM4とMDM2 に対するDNA-RNA chimera siRNAs (chiMDM4, chiMDM2)を作成した.3つのKRAS変異型 -TP53野生型ヒト癌細胞株(HCT116大腸癌株、LoVo大腸癌株、SNU-1胃癌細胞株) を用いてMek阻害剤トラメチニブとの併用効果を検討した。MDM2/4ダブルノックダウンとトラメチニブの併用はいずれの細胞株においても相乗効果を示し、強い腫瘍細胞増殖抑制が認められた。 このメカニズムの解明のために、さらに細胞周期制御分子(p21WAF1、cyclin D1/D2/D3, CDK4/6, pRBなど)、アポトーシス関連分子(PUMA、NOXA、BAX、Caspase8/9など)の発現解析を行なった。chiMDM4/2とトラメチニブ併用は細胞周期のG1停止とアポトーシス誘導を増強した。p53蛋白の集積、ERKのリン酸化の抑制、Rb蛋白リン酸化の抑制、E2F1活性化蛋白の抑制を介して強い細胞周期のG1停止をもたらした。さらに本併用療法はFas/PUMA発現を増強し外因性・内因性アポトーシスを誘導した。 本研究結果から同時性EGFRシグナルの抑制とp53活性化の治療戦略は、KRAS変異を有するp53野生型消化器癌において有望であることが示唆された。
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