研究課題/領域番号 |
18K07297
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研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
川本 晋一郎 神戸大学, 医学部附属病院, 講師 (00579104)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 大腸がん / anion exchanger 1 / 自己抗体 / 赤血球 / 低酸素 / cancer-related anemia / band 3 |
研究実績の概要 |
正常では赤血球に発現するband3蛋白の大腸癌組織での異所性発現による病態への影響を、大腸癌患者50名、健常者26名を対象として解析を行った。大腸癌患者ではHb12程度の貧血を認めたが、慢性の出血でみられるMCVの基準値以下への低下はなく網状赤血球の増加が影響していると考えられた。カラム法を用いた直接クームステストでは大腸癌患者において陽性率20%とこれまでの報告より極めて高く、便潜血陰性の患者でも多い傾向が見られた。大腸癌組織の抗band3抗体による免疫染色では97%の症例でこの異所性発現を確認した。この発現はin situ hybridizationによりmRNAレベルでも確認した。フローサイトメトリーによるmean fluorescence intensity(MFI)の比較では、健常者が29.9 ±15.6であったのに対し大腸癌患者では38.8±14.7で、有意差を持って赤血球膜上のIgGが増加していた。大腸癌患者におけるMFIはband3の癌組織での発現の強さとは相関せず、また、年齢やstage、便潜血の有無の比較では有意差はなく、がんにおける出血以外の2次性貧血の一因となっていると考えられた。さらに、血清中から回収したIgGによる免疫沈降実験によりband3蛋白に対する抗体の割合が大腸癌患者で増加していること、また、band3蛋白を発現するマウス大腸癌細胞株colon-26および血液細胞株WEHI3のマウスへの移植でも赤血球膜上のIgGと血清中の抗band3抗体が増加することを確認した。ヒト大腸癌細胞株HCT116およびSW480を用いたin vitroの実験により、band3蛋白をコードするSLC4A1遺伝の転写が低酸素状態を模倣する塩化コバルトにより刺激され、赤血球の分化の過程での制御と同様にAMPKのリン酸化がband3蛋白の発現を抑制することを確認した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
大腸がん患者50例と健常者を対象とした前向き試験の結果は日本血液学会誌 International journal of hematology にacceptされた。AIHAにおける悪性疾患の解析を行った他施設の後方視的解析において、固形がんを含む悪性疾患の頻度が高いと報告されたことより、現在保管中の大腸がん患者と健常者検体、自治医科大学で行われたクームス陰性AIHAの研究で保管されている血清からcell fress DNAを回収し、大腸がん患者で多いとされるKRAS変異の解析をデジタルPCRにより行っている(研究課題名 自己免疫性溶血性貧血および大腸癌患者の血清中タンパクの糖鎖修飾と遊離核酸解 整理番号 B190236)。また、血液学会誌臨床血液にband3の異所性発現による抗原刺激と自己抗体産生の機序につき総説を執筆した。
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今後の研究の推進方策 |
日本血液学会学術集会教育講演のために執筆した総説においてB1細胞のAIHAにおける役割について考察を行った。B1細胞は自然免疫での抗体産生に働く一方で、SLEなどの膠原病においては自己抗体の産生に関与していることや、抗赤血球膜自己抗体を産生するトランスジェニックマウスを用いた基礎研究の報告では、B1細胞が腸管固有層と腹腔内に存在して自己抗体の産生に関与しているとされていることから、本来は自然抗体である抗バンド3抗体と腸管を介した免疫のAIHA発症における関連を、大腸内視鏡検査による大腸がんや腺腫の合併割合や、HLA解析、末梢血中のB1細胞の頻度、腸内細菌叢のレパトア等について、難病登録されている患者を対象として解析することにより明らかにすることを検討している。 さらに、バンド3蛋白の異所性発現はアミノ末端を欠損した腎型のtruncated formによるものと考えられることからこの制御についてChIP等により解析を行い、大腸がんにおけるエクソソーム 分泌への影響を基礎実験により解析する。 また、骨髄異形成症候群においても白血球系細胞がバンド3蛋白を異所性に発現し、自己抗体産生による赤血球寿命の短縮をきたしている可能性があることから大腸がんと同様の解析を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
患者血清中蛋白の糖鎖修飾のレクチンアレイによる解析を研究計画書の審査通過後としたため、次年度へと繰り越した。 truncated formバンド3の発現制御や、エクソソーム への影響の解析を遺伝子組み替えを含めた基礎実験を行うため、 試薬や外注費として使用予定である。
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