研究課題/領域番号 |
18K07300
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研究機関 | 奈良県立医科大学 |
研究代表者 |
王寺 典子 (下嶋典子) 奈良県立医科大学, 医学部, 助教 (30398432)
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研究分担者 |
伊藤 利洋 奈良県立医科大学, 医学部, 教授 (00595712)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | HLA-F / 悪性腫瘍 / 免疫療法 |
研究実績の概要 |
HLA-FはHLAクラスI分子の一つで、多型性に乏しく、正常組織においては妊娠後期の胎盤トロホブラストに強く発現しているが、その他の組織には発現が見られない。また、抑制性のkiller cell Immunoglobulin like receptor (KIR)と会合し、NK細胞、T細胞の細胞傷害活性を抑制する。我々は、HLA-Fが腫瘍細胞に発現し、特に低分化・未分化癌に高発現することをすでに見出している。このことから、悪性腫瘍に高発現するHLA-Fは、抑制性KIRを介してNK細胞・T細胞を抑制することにより、腫瘍増悪化に寄与しているのではないかと考え、HLA-Fのブロッキングにより腫瘍免疫活性化が期待できると考えた。さらに腫瘍細胞からHLA-Fが放出されていれば腫瘍悪性度を判断する診断マーカーとなる可能性もあり、HLA-Fを標的とした新規癌免疫療法および新規診断マーカー開発を目的として本研究を行った。 今年度は、腫瘍組織標本の収集を行うと共に、in vitroにおけるHLA-Fブロッキング効果を検証するためのHLA-F陽性大腸癌細胞株の作製を行った。腫瘍組織標本数は順調にふやせており、現在、HLA-Fの発現と腫瘍悪性度・予後・再発との関連を解析している。In vitroにおける抗HLA-F抗体の免疫再活性化を検討するためには、細胞表面にHLA-Fを発現している大腸癌細胞株が必要である。これまで7種の大腸癌細胞株におけるHLA-Fの発現を検討したが、いずれも細胞表面にHLA-Fを発現しておらず、HLA-Fの遺伝子導入により、細胞表面にHLA-Fを発現するHLA-F陽性大腸癌細胞株の作製を試みたが、現在のところ成功していない。今後もHLA-F陽性大腸癌細胞株の作製を中心に行い、in vitroにおける抗HLA-F抗体療法の有用性を検証できる実験系の確立をめざす。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
腫瘍組織標本の収集については、順調に行なえているので、今度も継続する。 これまでの研究から、腫瘍悪性度の異なる大腸癌細胞株において、腫瘍悪性度に伴いHLA-FのmRNAの発現が上昇することを確認している。しかし、いずれの細胞株においてもHLA-Fが細胞表面に発現しておらず、in vitroにおけるHLA-Fブロッキング効果を検証するための標的細胞として使用することができない。HLA-Fを細胞表面に発現する大腸癌細胞株を作製するため、HLA-Fを遺伝子導入しHLA-Fを強発現させ、細胞表面にHLA-Fが発現するのか検証したが、これまでのところ、細胞表面にHLA-Fを発現する大腸癌細胞株を得られていない。遺伝子導入した細胞の細胞質にはHLA-Fタンパクが産生されていることは確認できている。 in vitroにおける抗HLA-F抗体療法の有用性検証のためのHLA-F陽性大腸癌細胞株の作製が遅れていることから、進捗状況は「やや遅れている」と判断した。
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今後の研究の推進方策 |
HLA-F遺伝子導入細胞株において、細胞質にHLA-Fタンパクの産生は確認できている。 HLA-Fは定常状態のリンパ球の細胞表面には発現せず、in vitroで強く活性化されたリンパ球の細胞表面には発現することがすでに報告されている。リンパ球だけでなく、大腸癌細胞株においても同様の発現様式を取る可能性があるので、この点について検討する。 また、現在、臨床検体の収集を行っているため、これらから分離した細胞等を用い、HLA-F陽性の大腸癌細胞株を作製し、in vitroにおける抗HLA-F抗体療法の有用性を検証できる実験系の確立をめざす。 腫瘍組織標本の収集については、順調に行なえているので、今度も継続して収集し、HLA-Fと予後・再発との関連解析を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
細胞表面にHLA-Fを発現する腫瘍細胞株の作製が遅れているため、in vitroにおける抗HLA-F抗体療法の有用性検証実験が行えていない。そのため次年度使用額が生じた。細胞表面にHLA-Fを発現する腫瘍細胞株作製後、in vitroの実験系を確立し、抗HLA-F抗体療法の有用性検証実験を順次行っていく予定なので、その中で今回の次年度使用額を合わせて使用する。
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