HLA-Fは多型性に乏しいHLA クラスIb分子の一つで、抑制性のkiller cell Immunoglobulin like receptor (KIR)と会合し、NK細胞、T細胞の細胞傷害活性を抑制する。我々は、HLA-Fが腫瘍細胞に発現し、特に低分化・未分化癌に高発現することをすでに見出している。このことから、悪性腫瘍に高発現するHLA-Fは、抑制性KIRを介してNK細胞・T細胞を抑制することにより、腫瘍増悪化に寄与しているのではないかと考え、HLA-Fのブロッキングにより腫瘍免疫活性化が期待できると考えた。さらに腫瘍細胞からHLA-Fが放出されていれば腫瘍悪性度を判断する診断マーカーとなる可能性もあり、HLA-Fを標的とした新規癌免疫療法および新規診断マーカー開発を目的として本研究を行った。 今年度は、臨床検体9例を追加収集し、in vitroにおける抗腫瘍効果を検討した。その結果、7例にHLA-F陽性の腫瘍細胞を検出し、in vitroにおける抗腫瘍効果は、このうちの5例に認められた。また、これまでに収集した腫瘍病理組織標本におけるHLA-Fの発現強度と臨床情報との関連解析を行ったところ、HLA-Fの発現強度と腫瘍悪性度、再発リスクとの関連が示唆された。今後は、さらに症例数を増やし解析をすすめ、がん診断マーカーとしてのHLA-Fの有用性を明らかにする。 昨年度、非常に容易な方法で臨床検体から継代可能な臨床検体由来の大腸癌細胞を得ることができたので、このうち特に増殖のよい4症例由来の大腸癌細胞をSCID-beige、ヌードマウスに移入して、in vivoにおける抗HLA-F抗体療法の抗腫瘍効果を検証モデルの確立を試みた。しかし、現時点では大腸癌細胞の生着が見られず、in vivoモデルの確立に至っていないため、今後も継続して解析を続ける。
|