研究課題
Bromodomain and extra-terminal(BET)阻害薬は、BET familyタンパク質のbromodomainとアセチル化ヒストンの結合を競合的に阻害し、細胞周期をG1期で停止させてがん細胞の増殖を抑制する。本研究において、BET阻害薬耐性細胞では、Traf2 and NCK-interacting kinase(TNIK)、cyclin D1、cyclin E1のタンパク質およびmRNAの発現が上昇していることが示された。TNIKは大腸がんの発生と進展に重要なWntシグナルの活性化に関与し、種々の遺伝子の発現を制御することが知られているが、TNIKとcyclin E1の遺伝子CCNE1の関連については報告がない。HCT116細胞にTNIK発現plasmidを導入すると、TNIK、cyclin D1、cyclin E1のタンパク質発現およびmRNA発現が上昇した。BET阻害薬耐性細胞に、luciferase遺伝子の上流にCCNE1 promoterを組み込んだreporter plasmid(pGL4.10-CCNE1)を導入すると、親株のHCT116細胞よりも高いluciferase活性が示された。HCT116細胞にTNIK発現plasmidとpGL4.10-CCNE1を共導入した実験では、細胞のluciferase活性はTNIK発現plasmidの量に依存して上昇した。以上より、TNIKは、BET阻害薬耐性細胞において、CCNE1 mRNAの転写を活性化させてcyclin E1の発現を増大させたと結論した。Cyclin E1は、CDK2と複合体を形成し、RBタンパク質をリン酸化してE2Fを放出させることにより細胞周期をS期に移行させる。このためBET阻害薬耐性細胞におけるcyclin E1の発現上昇は、BET阻害薬の細胞周期停止作用を抑制して細胞を増殖させる効果を示すと考えられる。また本年度は、新たにCHK1阻害薬prexasertibおよびWee1阻害薬adavosertibのそれぞれに対する耐性細胞を樹立した。CHK1はS期チェックポイントおよびG2/Mチェックポイントを制御する。またWEE1もG2/Mチェックポイントに働く。今後、これらの耐性細胞を本研究に加えて、がん細胞の薬剤耐性における細胞周期の制御応答について検討する。
2: おおむね順調に進展している
本研究において、polo-like kinase(PLK)阻害薬耐性細胞およびaurora kinase(AURK)阻害薬耐性細胞に共通して、AKT3の発現の亢進と活性化が起こっていることが示された。PLK、AURKは細胞周期のM期に働くキナーゼである。細胞にAURK阻害薬、AKT阻害薬を処理すると、細胞分裂のM期に3個以上の紡錘体極が出現するmultipolar spindleの頻度が上昇した。活性型AKT3安定発現細胞においては、薬剤未処理時およびAKT阻害薬処理時のmultipolar spindleの頻度が低下した。また細胞にGSK3β阻害薬を処理すると、multipolar spindleの頻度が低下した。以上より、AKT3は染色体分離異常であるmultipolar spindleの形成を抑制し、この作用は下流のGSK3βを介しているものと考えられた。PLK阻害薬耐性細胞およびAURK阻害薬耐性細胞では、AKT3の高発現により、阻害薬による染色体分離異常を回避していると考えられた。また、BET阻害薬耐性細胞において、TNIK、cyclin D1、cyclin E1のタンパク質およびmRNAの発現が上昇していることが示された。このメカニズムとして、TNIKがcyclin E1の遺伝子CCNE1のpromoterを活性化させてmRNA発現を上昇させることが示された。Cyclin E1は、CDK2と複合体を形成し、RBタンパク質をリン酸化してE2Fを放出させることにより細胞周期をS期に移行させる。このためBET阻害薬耐性細胞におけるcyclin E1の発現上昇は、BET阻害薬の細胞周期停止作用を抑制して細胞を増殖させる効果を示すと考えられる。また本年度は、新たにCHK1阻害薬prexasertibおよびWee1阻害薬adavosertibのそれぞれに対する耐性細胞を樹立した。CHK1はS期チェックポイントおよびG2/Mチェックポイントを制御する。またWEE1もG2/Mチェックポイントに働く。今後、これらの耐性細胞を本研究に加えて、がん細胞の薬剤耐性における細胞周期の制御応答について検討していく。
これまでの研究で、BET阻害薬耐性細胞において、TNIK、cyclin D1、cyclin E1のタンパク質およびmRNAの発現が上昇していることが示された。TNIKは大腸がんの発生と進展に重要なWntシグナルの活性化に関与し、種々の遺伝子の発現を制御する。このため、TNIKの発現上昇がBET阻害薬に対する耐性に関与するかについて、TNIK遺伝子導入発現細胞を作成して検討する。また、種々の抗がん剤および分子標的薬に対するBET阻害薬耐性細胞の交差耐性について検討する。得られた結果をもとに、抗がん剤および分子標的薬の併用によるより効果的な治療法について検討する。新しく樹立されたCHK1阻害薬耐性細胞およびWee1阻害薬耐性細胞について、標的分子の変異、発現および活性の変化を検討する。また遺伝子発現の変化を網羅的に検討する。種々の抗がん剤および分子標的薬に対するCHK1阻害薬耐性細胞およびWee1阻害薬耐性細胞の交差耐性について検討する。得られた結果を統合して、CHK1阻害薬に対する耐性の獲得およびWee1阻害薬に対する耐性の獲得のメカニズムを検討する。また、がん細胞の薬剤耐性における細胞周期の制御応答について検討する。SLUG遺伝子、SNAIL遺伝子を導入して上皮間葉転換(EMT)を誘導したHCT116由来のEMT細胞が、SP(+)細胞を高率に含むことが示されている。これらの細胞のSP(+)細胞の割合を変動させる物質のスクリーニングを行う。得られた結果をもとに、SP(+)細胞形質の制御因子を検討する。また、これらのEMT細胞に効果的な阻害薬を探索する。
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すべて 国際共同研究 (6件) 雑誌論文 (6件) (うち国際共著 4件、 査読あり 6件) 学会発表 (12件) (うち国際学会 1件) 備考 (1件)
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