小胞体ストレスに対する抵抗性の獲得は、エネルギー枯渇等の小胞体内に異常タンパク質が蓄積しやすい微小環境下にあるがん細胞にとって重要な防御機構の一つである。しかしながら、その分子機序に関しては不明な点が多い。これまでの研究により、がん遺伝子Xの活性化変異体が小胞体ストレス抵抗性因子である可能性を見出していた。そこで、本研究では、がん遺伝子“X”の活性化変異体による小胞体ストレス抵抗性化機序を分子レベルで明らかにし、その治療標的化を目指した。 昨年度までに、活性型の変異X遺伝子を発現するがん細胞株においてXをノックダウンすると、小胞体ストレスに高感受性化し細胞死が誘導されることを見出していた。そこで本年度は、活性化がん遺伝子Xによる小胞体ストレス抵抗性の機序解明に焦点を当て、小胞体ストレスに関連する細胞死誘導分子に着目し解析を進めた。その結果、小胞体ストレス下ではBcl-2ファミリータンパク質Bimの発現が誘導されるが、活性型XノックダウンによりBimの発現誘導が顕著に増強され細胞死誘導が増強されることを見出した。さらに、活性型XとともにBimをノックダウンすると、小胞体ストレスによる細胞死誘導が抑制された。これらの結果などから、活性型Xは、Bim発現誘導を抑制することによって小胞体ストレス抵抗性を賦与することが明らかになった。以上のように、活性化X遺伝子による細胞死抵抗性が小胞体ストレス選択的であることに着目し、小胞体ストレスに関連する細胞死誘導分子の解析を進めた結果、活性型XによるBimの発現抑制という小胞体ストレス抵抗性機序を明らかにすることができた。本研究を通して、各種活性型がん遺伝子特有のストレス適応機構を明らかにできつつあり、今後の治療標的化研究への展開に重要な示唆を与えるデータが得られたと考えている。
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