研究課題/領域番号 |
18K07311
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研究機関 | 国立医薬品食品衛生研究所 |
研究代表者 |
柴田 識人 国立医薬品食品衛生研究所, 遺伝子医薬部, 主任研究官 (30391973)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | がん / 融合キナーゼタンパク質 / タンパク質分解 |
研究実績の概要 |
近年、異なるタンパク質が融合した融合タンパク質によるがん化は、白血病のみならず様々な固形がんでも明らかとなり、中でもキナーゼ活性を有するがん特異的融合キナーゼタンパク質は新たな創薬標的として注目されている。これまでに多数の選択的キナーゼ阻害剤が開発され、優れた抗がん活性を示している。しかし長期治療の過程で、既存阻害剤に耐性となるがんが出現することが大きな問題となっており、新たな作用機序を持つ薬剤の開発が望まれている。 私はタンパク質の分解機構に着目し、がん特異的融合キナーゼタンパク質(慢性骨髄性白血病の原因となるBCR-ABL、非小細胞肺がんの原因となる EML4-ALK, CCDC6-RET)が、脱ユビキチン化酵素(DUB)によって安定化されている可能性を見出した。本研究ではこのDUBによる安定化機構を解明し、その細胞機能への影響を明らかにすると共に、この安定化機構の阻害剤開発を目指す。 本年度の研究成果は下記の通りである。 (1) BCR-ABLのタンパク質安定化に寄与するDUBはすでに同定しているが、その詳細な分子機構や特異性、さらには細胞増殖への影響などを解明した。 (2) EML4-ALK, CCDC6-RETについて責任DUBの探索を行い、EML4-ALKについては責任DUBを、CCDC6-RETについては候補DUB分子を複数見出した。 (3) 他のがん特異的融合キナーゼタンパク質についても同様なDUBによる制御を受けていないか検討し、非小細胞肺がんの原因となる SLC34A2-ROSもDUBによって安定化されている可能性を見出した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究課題では、がん特異的融合キナーゼタンパク質の安定化機構を阻害するという創薬コンセプトを確立し、実際にDUBを標的としたがん特異的融合キナーゼタンパク質分解促進薬を開発することを目指している。その意味では、当初見出されていたがん特異的融合キナーゼタンパク質以外にも SLC34A2-ROSがDUBの制御を受けている可能性を見出したことは、この創薬コンセプトの拡充に繋がる意義深い成果である。また先行しているがん特異的融合キナーゼタンパク質については、各々責任DUBの探索が進み、特にBCR-ABLについては標的バリデーションまで完了しており、阻害薬探索の手前まで来ていると言える。このような理由から本研究は概ね順調に進展したと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
当初の計画通り、BCR-ABLについては責任DUBの阻害薬探索を行うべく、まずはスクリーニング系の構築を目指す。またそれ以外のがん特異的融合キナーゼタンパク質については責任DUBの同定、及びその機能解析を行う。 一方キナーゼではないが、がん特異的融合タンパク質も近年多数報告されている。これらはそれ自体に創薬標的とすべき酵素活性がないことから、治療薬開発が困難である。そこでDUBによるがん特異的融合キナーゼタンパク質の安定化機構というコンセプトが、こうしたがん特異的融合タンパク質にも当てはまるか検証する。
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次年度使用額が生じた理由 |
(理由) 研究を効率的に進めるべく、がん特異的融合キナーゼタンパク質の安定化機構に関わるDUBの探索に焦点を絞って行ったところ、当該助成金が生じた。 (使用計画) 次年度は責任DUBの同定のみならず機能解析も行う一方、BCR-ABLの安定化に関わるDUBについて阻害薬探索にかかるスクリーニング系の構築を行うため、必要な一般試薬、実験用プラスティック器具などとして相当額を使用する予定である。
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