研究課題
異なるタンパク質が融合した融合タンパク質によって引き起こされる細胞のがん化は、当初は白血病や肉腫などにしか見られなかったが、測定技術の進歩に伴い、様々な固形がんなどでも起きていることが近年相次いで報告されており、がん治療薬開発研究の一つのホットスポットとなっている。中でもキナーゼ活性を有するタンパク質を融合パートナーの一つに持つようながん特異的融合キナーゼタンパク質は新たな創薬標的として注目されている。これまでに恒常的なキナーゼ活性の亢進ががんを引き起こしうることが報告されてきたことから、がん治療薬開発では多数の選択的キナーゼ阻害薬が開発され、優れた抗がん活性を示してきた。しかし長期治療の過程で、既存の阻害薬に耐性となるがんが出現することが大きな問題となっており、新たな作用機序を持つ薬剤の開発が望まれている。私は本研究課題も含め、これまでの研究を通じてタンパク質の分解機構に着目した創薬の可能性を模索してきたが、がん特異的融合キナーゼタンパク質(慢性骨髄性白血病の原因となるBCR-ABLなど)が、脱ユビキチン化酵素(DUB)によって安定化されている可能性を見出した。すなわち正常な細胞にとって融合キナーゼタンパク質は本来異質な存在であり、従って排除されるべき対象であるが、がん細胞内ではDUBによってその排除を免れていると考えられる。本研究ではキナーゼ以外のがん特異的融合タンパク質も含め、DUBによる融合タンパク質の安定化機構の存在、およびこの機構を標的とした創薬開発というコンセプトの確立に資する基盤研究を行なってきた。本年度は、これまでに見出されていたBCR-ABLの安定化に寄与するUSP25の阻害剤の候補化合物について、BCR-ABLタンパク質への影響およびがん細胞増殖能への影響などを検討した。
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