研究課題/領域番号 |
18K07319
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
植松 美影 (濱田美影) 東京大学, 医科学研究所, 特任研究員 (90769449)
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研究分担者 |
田原 秀晃 東京大学, 医科学研究所, 特任教授 (70322071)
内田 宏昭 東京大学, 医科学研究所, 特任准教授 (20401250)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | PD-L1 / PD-L2 / MFG-E8 |
研究実績の概要 |
前年度までにヒト食道がん由来培養細胞およびヒト乳がん由来培養細胞に抗がん剤を添加することで、免疫逃避因子PD-L1, PD-L2, MFG-E8のmRNAおよびタンパク質の発現が亢進することを確認している。2020年度は免疫逃避能獲得担がんマウスモデルの確立のため、マウスがん由来培養細胞に抗がん剤を添加し、PD-L1, PD-L2タンパク質発現変動をFlow cytometryにて解析した。その結果、MC38細胞および4T1細胞に抗がん剤を添加すると、細胞表面上のPD-L1タンパク質の発現が亢進していることを確認した。一方PD-L2タンパク質に関しては、抗がん剤無添加の細胞でほとんど発現がみられず、抗がん剤を添加しても発現が亢進することはないことがわかった。 抗がん剤刺激による免疫逃避能発現を制御する機構の解明に関しては、これまでにPD-L1, MFG-E8のプロモーターアッセイにより、それぞれの発現亢進に重要なプロモーター領域を特定し、そこに結合する転写因子Xが推定されている。これら免疫逃避因子の発現制御の詳細を明らかにすることは、抗がん剤と免疫チェックポイント阻害薬との併用療法の効果予測マーカーや新たな併用薬の開発に寄与すると考えている。そこで、候補転写因子のsiRNAを食道がん由来細胞、乳がん由来細胞にそれぞれ導入することで、転写因子の発現量低下がPD-L1, MFG-E8の発現亢進を抑制するのか否かについてreal time RT-PCRで確認をおこなった。その結果、転写因子Xの発現を抑制しても、PD-L1, MFG-E8の発現亢進に影響を与えず、別の転写因子YがPD-L1を正, MFG-E8を負に、転写因子ZがPD-L1を負, MFG-E8を正に発現を制御していることを示唆する結果を得た。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
4, 5月は新型コロナに関する緊急事態宣言で研究活動が停止、8月から3月までは産前産後休暇と育児休業を取得しており、2カ月間しか研究活動を行うことができなかったため、計画に対して遅れている。 今年度で進捗した内容としては、PD-L1, MFG-E8のプロモーターアッセイで発現制御への関与が推定された候補転写因子のsiRNAを用いて、転写因子の発現低下がPD-L1, MFG-E8の発現亢進を抑制するのか否かについて検証をおこない、第一候補であった転写因子Xとは別の転写因子YがPD-L1を正, MFG-E8を負に、転写因子ZがPD-L1を負, MFG-E8を正に発現を制御していることを示唆する結果を得ることができた。また、担癌マウスモデル立ち上げの準備として、マウス培養細胞に抗がん剤を添加し、PD-L1タンパク質の発現亢進を確認することができた。現在はsiRNAを導入した細胞のFlow cytometry解析をおこなうことを計画している。
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今後の研究の推進方策 |
PD-L1, MFG-E8の発現を制御する転写因子の特定については、mRNAレベルで効果がみられた候補転写因子Y, ZのsiRNAを導入した細胞に抗がん剤を添加し、レポーターアッセイやFlow cytometry解析にて、その転写因子の発現減少が特定されたプロモーター領域での転写活性や、PD-L1, MFG-E8タンパク質発現にも影響を与えるのかどうかを確認する。また、Tet Onシステムによる転写因子強発現細胞を作成し、免疫逃避因子の発現制御に対する転写因子の関与について詳細に解析する。さらに、これまで扱ってきたヒト食道がん細胞株や乳がん細胞株における転写因子の発現量と免疫逃避因子の発現亢進の相関解析をおこない、この転写因子が免疫逃避能を獲得するか否かを規定する要因となるのか検証する。 次に免疫逃避能獲得担がんマウスモデルの確立を進める。2020年度はマウス由来培養細胞に抗がん剤を処理し、PD-L1のタンパク質発現亢進を確認した。今後はMFG-E8タンパク質発現量についてもFlow cytometryにて発現上昇する条件を検討し、マウス由来細胞と抗がん剤の組み合わせを決定する。次に実際に培養細胞をマウスに移植し、抗がん剤を投与して腫瘍での免疫逃避因子の発現変動を確認し、抗がん剤と免疫逃避因子の中和抗体との併用治療試験をおこなう。 さらに転写因子Y, ZのsiRNAを導入したマウス由来培養細胞に抗がん剤を添加し、PD-L1, MFG-E8の発現に対する影響を検討する。ヒトの細胞と同じ転写因子による発現制御機構であると確認でき次第、Tet OnやCRISPR Cas9のシステムを用いて転写因子の高発現、低発現細胞を作成し、それらの細胞を移植したマウスでの化学・免疫併用療法の効果を検証する。
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次年度使用額が生じた理由 |
今年度は新型コロナによる2か月間の出勤停止、および産前産後休暇・育児休業取得により、研究活動ができたのは2カ月程度であり、ほとんど使用することができなかった。次年度以降は動物実験や機器購入、シーケンス解析の外部委託等で使用する予定である。
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