研究課題/領域番号 |
18K07320
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研究機関 | 国立研究開発法人国立がん研究センター |
研究代表者 |
河津 正人 国立研究開発法人国立がん研究センター, 研究所, ユニット長 (20401078)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 乳がん / ロングリードシーケンサー |
研究実績の概要 |
トリプルネガティブ乳がんはエストロゲン受容体陰性、ヒト上皮成長因子受容体2(HER2)陰性の、予後不良な疾患単位であり、診断マーカーおよび治療標的の同定が強く求められている。トリプルネガティブ乳がんの一部の症例において、上皮成長因子受容体(EGFR)の強力なリガンドである腫瘍成長因子αをコードするTGFAの発現制御領域のゲノム構造異常によりTGFAの発現が亢進していることを見出した(Kawazu, et al. PLOS Genetics, 2017)。本研究計画は、TGFAをトリプルネガティブ乳がんの新たな診断マーカーおよび治療標的として利用するための基礎的知見を得ることを目的として開始した。前年度には患者由来腫瘍異種移植(PDX)モデルを用いて、TGFAの治療標的としての妥当性を検討したが、残念ながら明らかな治療効果は得られなかった。そのため、本年度は計画を変更しロングリードシーケンサーを用いた全長転写産物の網羅的解析(Iso-seq)を進めた。当初は有望な治療標的・バイオマーカーとして考えていたTGFAについては、Iso-seqにおいてもゲノム構造異常に基づく転写活性化を示すデータおよび転写制御を変えるようなTGFAの融合遺伝子が検出され、これまでの研究およびロングリードシーケンサーによる転写産物解析の妥当性が示された。TGFA以外のより有用な治療標的・バイオマーカー探索を進めるために、Iso-seqによる網羅的な転写産物解析を効率的に行うための解析パイプラインMuSTAを構築した。本パイプラインにより、ショートリードシーケンサーでは詳細な解析が難しい複雑な構造異常に基づく融合遺伝子の検出などが可能となった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の研究目的であるトリプルネガティブ乳がんの有望な治療標的・バイオマーカー候補であるTGFAの詳細な解明については、TGFAに対する治療効果が得られなかったことから、研究計画の変更を余儀無くされた。しかしながら、トリプルネガティブ乳がんの全長転写産物の網羅的解析Iso-seqを進め、Iso-seq解析のための効率的な解析パイプラインMuSTAを確立し、TGFA以外の治療標的・バイオマーカー探索の技術基盤を整えた。本パイプラインはショートリードシーケンサーでは検出できない異常な転写産物の検出が可能であることが確認されたため、順調な進展と判断した。
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今後の研究の推進方策 |
本年度に確立したロングリードシーケンサーによる全長転写産物の網羅的解析(Iso-seq)の解析パイプラインMuSTAを活用して、トリプルネガティブにおいて有望な治療標的・バイオマーカーの探索を進める。 これまでにエストロゲン受容体陽性乳がん8症例、トリプルネガティブ乳がん14症例についてIso-seqを行い、データを収集した。これらの乳がん症例は先行研究において全ゲノム解析を行った症例であり(Kawazu, et al. PLOS Genetics, 2017)、MuSTAパイプラインを用いて統合的な解析を行うことで、ゲノム構造異常と、それに由来する転写産物の詳細な解析が可能となる。既に、乳がんのサブタイプに特異的な転写産物バリアントがみられる遺伝子を複数同定した。また、ショートリードシーケンサーでは同定不可能な、3つのゲノム領域の結合に由来する融合転写産物の検出にも成功した。このようなサブタイプ特異的バリアントや複雑な融合転写産物は、トリプルネガティブ乳がんの病態に深く関わっているものと考えられ、有望な治療標的・バイオマーカー候補と考えられる。Iso-seq解析により同定された候補遺伝子について、さらに詳細なゲノム・転写産物解析を進め、また機能解析も行う。また、解析パイプラインMuSTAを最適化するため、また有用性・正確性等を評価するためにシミュレーションデータ解析などによる評価も行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究計画の修正・変更、研究の実施方法の修正・変更にともない、研究に用いる試薬等の変更が生じたため。来年度は、修正した計画に沿った計画の実施が見込まれるため、予定通りに予算を執行できる見込みである。
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