研究課題
トリプルネガティブ乳がんはエストロゲン受容体陰性、ヒト上皮成長因子受容体2(HER2)陰性の、予後不良な疾患単位であり、診断マーカーおよび治療標的の同定が強く求められている。トリプルネガティブ乳がんの一部の症例において、上皮成長因子受容体(EGFR)の強力なリガンドである腫瘍成長因子αをコードするTGFAの発現制御領域の染色体構造異常によりTGFAの発現が亢進していることを見出した(Kawazu, et al. PLOS Genetics, 2017)。本研究計画は、TGFAをトリプルネガティブ乳がんの新たな診断マーカーおよび治療標的として利用するための基礎的知見を得ることを目的として開始した。患者由来腫瘍異種移植(PDX)モデルを用いて、TGFAの治療標的としての妥当性を検討したが、残念ながら明らかな治療効果は得られなかった。そのため、昨年度は計画を変更しロングリードシーケンサーを用いた全長転写産物の網羅的解析(IsoSeq)を進め、IsoSeqによる網羅的な転写産物解析を効率的に行うための解析パイプラインMuSTAを構築した。当初は有望な治療標的・バイオマーカーとして考えていたTGFAについては、IsoSeqにおいても染色体構造異常に基づく転写活性化を示すデータおよび転写制御を変えるようなTGFAの融合遺伝子が検出され、これまでの研究およびロングリードシーケンサーによる転写産物解析の妥当性が示された。本パイプラインにより、ショートリードシーケンサーでは詳細な解析が難しい複雑な構造異常に基づく融合遺伝子の検出が可能となった。特に、腫瘍免疫の抑制に機能するERVFRD-1遺伝子の過剰発現を引き起こす染色体構造異常を明らかにした(https://www.biorxiv.org/content/10.1101/2020.07.15.199851v1)。
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