研究課題/領域番号 |
18K07324
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研究機関 | 岡山大学 |
研究代表者 |
市川 康明 (竹内康明) 岡山大学, 中性子医療研究センター, 教授 (30126833)
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研究分担者 |
道上 宏之 岡山大学, 中性子医療研究センター, 准教授 (20572499)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | がん治療 / ホウ素中性子捕捉療法 / BNCT / ホウ素製剤 / 細胞内局在 / ペプチド / BSH / 創薬 |
研究実績の概要 |
次世代のがん治療であるホウ素中性子捕捉療法(Boron Neutron Capture Therapy, BNCT)は、ホウ素を取込ませたがん細胞に中性子線を照射し、ホウ素と中性子の核反応により細胞を破壊する。BNCTの中性子源としては1950年代から利用されてきた原子炉に代わり、中性子発生装置の一部が企業治験段階に進み、今後のBNCTの成功の可否はホウ素薬剤に大きく依存する。BNCTにより発生した数マイクロメートル飛程の2次粒子は、腫瘍細胞へ細胞障害を誘導する際に、ホウ素薬剤が細胞のどの位置(細胞外膜、細胞質、核膜、ミトコンドリア、核内など)に局在するかによりその効果が異なると、これまで報告してきた。現在治験中薬剤BPA(ホウ素フェニルアラニン)はアミノ酸フェニルアラニンに1個のホウ素が結合したホウ素アミノ酸誘導体である。腫瘍細胞は、正常細胞と比較して一般的にアミノ酸代謝が亢進しており、様々なアミノ酸取り込みが高いとされている。同様にフェニルアラニンの誘導体であるBPAも腫瘍に特異的に取り込まれ、さらに正常細胞と比較して腫瘍細胞にフェニルアラニンの取り込みを行うアミノ酸トランスポーターLAT1が強発現していることより、BPAは腫瘍特異的なホウ素分子標的薬とも言える。アミノ酸を標的としたホウ素薬剤は非常に素晴らしい取り込み能を示している一方で、腫瘍細胞の中には、一部取り込み能の低いものも存在し、BNCT後の再発の原因となっている。我々は、これまで細胞内導入困難とされてきたホウ素12個からなる正20面体構造を有するホウ素立体分子BSH(Na2B12H11SH)をアミノ酸・ペプチド修飾することにより細胞内導入することに成功した。本薬剤を用いて、中性子照射により生じる殺細胞効果を細胞内のホウ素薬剤の細胞内小器官の局在の見地より評価し、今後のホウ素薬剤開発への発展へ繋げる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
我々は、アミノ酸とは異なる導入経路による細胞内導入法を有するホウ素薬剤を作製することを選択し、本研究を遂行することとした。BPAは、細胞質内に広く拡散し、一部は核へも到達し、明確な細胞内局在を示さない。今回対象とするBSHは高い水溶性、高いホウ素含有率のホウ素立体小分子であるが、細胞内導入能が無い為、これまで効果が低いとされてきた。そこで、細胞膜通過ペプチド(CPP)と呼ばれる細胞外膜を通過させ細胞導入を可能にするペプチドを結合させることで、BSHを細胞内導入することに成功した。BSH-1R, BSH-2R, BSH-3Rは細胞膜を通過し、細胞内に局在し、それぞれ、細胞内エンドソーム(BSH-1R), 核局在(BSH-2R), 核及び細胞質局在(BSH-3R)を示す。また、BSH-(R)nの局在については、本研究において評価する。 さらに、両親媒性ペプチドA6KをDDSとして用いる創薬を行っている。その中で、ホウ素薬剤BSHとA6Kを混合のみにて作成する新規ホウ素薬剤の手法確立に成功し、現在研究を進めている。この複合体は、BPAとはまた異なる経路で細胞内へ導入され、異なる細胞内局在を示すとシミュレーションしており、本研究推進のための新たな鍵となる。よって、研究は順調に進展しており、今後の結果が期待される。
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今後の研究の推進方策 |
実験① 新規ホウ素薬剤合成:詳細については特許申請前であるため割愛するが既に細胞内オルガネラを標的としたホウ素薬剤の合成を行っており、これまで示したBSH-11R製剤やBSH-(R)n製剤の合成手法の確立を目指す。 実験② 細胞内ホウ素濃度測定:各ホウ素製剤投与による時間経過による細胞内ホウ素濃度測定を行う。また、低酸素状態、低血糖状態での腫瘍環境における各製剤の取込について、ICP(高周波誘導結合プラズマ)を用いてホウ素濃度測定を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
現在、本プロジェクトに用いる創薬研究に注力して研究を行っている。創薬研究においては、ペプチドとホウ素薬剤の混合比の検討によるものである。現在、細胞レベルでの研究プロジェクトを遂行中である。使用する新規ホウ素薬剤検討に現在注力しているため、プロジェクトでの予算執行との間に若干の差異はあるも、今後予定している動物実験等で使用していく予定である。以上より、研究全体に関しては問題ないと思われる。
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