研究課題/領域番号 |
18K07331
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
松下 麻衣子 慶應義塾大学, 薬学部(芝共立), 准教授 (10327520)
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研究分担者 |
服部 豊 慶應義塾大学, 薬学部(芝共立), 教授 (20189575)
河上 裕 慶應義塾大学, 医学部(信濃町), 教授 (50161287)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 免疫学的細胞死 / 複合免疫療法 / 多発性骨髄腫 / 膵がん |
研究実績の概要 |
本研究では、多発性骨髄腫や膵臓がんを含む難治がんにおいて、患者体内の抗腫瘍免疫反応を増強する薬剤を見出すことを目的として、既存薬ががん細胞に免疫学的細胞死(ICD)を惹起し得るかどうかについて検討を行った。 まず、根治が未だに困難である多発性骨髄腫細胞に対して、プロテアソーム阻害薬であるカルフィルゾミブおよびボルテゾミブが臨床で使用している用量よりも低濃度で ICD を強く誘導することを in vitro の系で証明した。これらの薬剤で処理した骨髄腫細胞は、樹状細胞の成熟化および T 細胞の増殖を促進する傾向を認め、もともと報告されている殺細胞効果だけでなく、免疫増強効果を併せ持つことが示唆された。 さらに、ハイリスク染色体陽性例を含む 3 種類の骨髄腫細胞にカルフィルゾミブを添加した際の遺伝子変化をマイクロアレイ法で確認したところ、炎症反応などに関する遺伝子変化が認められた。今後、薬剤抽出データベースを用いて今回得られた遺伝子データを解析することにより、免疫反応を増強し得る他の既存薬も明らかにすることが可能であると考えられた。 さらに、上記と平行して、薬剤による免疫学的効果を in vivo で評価する実験系の樹立も進めた。まず、我々がこれまでに膵臓がんや骨髄腫に高発現することを証明してきた新規がん抗原に特異的な T 細胞をデキストラマー法およびセルソーターを用いて分離し、抗原特異的 T 細胞受容体(TCR)遺伝子のクローニングを行った結果、3 種のクローン候補を得た。今後、これらの抗原特異的 TCR 遺伝子を導入したヒト T 細胞を作成し、各種がん細胞に対する細胞傷害活性を検討したうえで、免疫増強薬による抗腫瘍効果を評価する。 最終的に、強力な免疫増強作用を持つ薬剤を明らかにし、これを既存の治療法と組み合わせることで、難治がんに対して真に有効な治療法の確立を目指す。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、in silicoの薬剤スクリーニングに用いる基礎データとして、多発性骨髄腫において免疫学的細胞死を起こしうる薬剤についてin vitroの検討を行った。その結果、プロテアソーム阻害剤であるカルフルゾミブおよびボルテゾミブをハイリスク症例を含む多発性骨髄腫細胞株に対して強いICD誘導効果を持つことを見出した。さらに、複数の細胞株において、プロテアソーム阻害薬を添加した際に起こる遺伝子変化のデータをDNAマイクロアレイ法で得ることができた。現在本データを解析中であるが、解析結果は今後のin silicoの薬剤スクリーニングに使用する重要なデータとなる。 加えて、薬剤の免疫増強効果を評価する系として、本年度は、我々がエピトープを同定した新規がん抗原特異的 T 細胞受容体(TCR)遺伝子のクローニングを行った結果、3 種のクローン候補を得ることができた。さらにこれらの遺伝子クローンを挿入したレトロウイルスベクターを作成した。これらを用いて、人工的な抗原特異的細胞傷害性T細胞の作成が可能となる。 以上より、平成30年度において本研究の核となる免疫増強薬スクリーニングおよびその評価法について、順調にデータを蓄積することができたと考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
平成31年度は、平成30年度に得られたデータを用いて、いよいよ本格的に薬剤スクリーニングとその評価を進める。すなわち、強力なICD誘導を引き起こすプロテアソーム阻害剤の添加実験から得られた遺伝子データを基に、薬剤データベースを用いてがん細胞にICDを誘導し得る他の薬剤を抽出する。次に、抽出された薬剤を実際にがん細胞に添加することで、ICDが誘導されるかどうかを確認する。もしこれらの薬剤においてもがん細胞に対するICD誘導効果を認めた場合、プロテアソーム阻害剤とともに、In vivoの評価系へと研究を進める。 また、In vivoの評価系については、平成30年度にクローニングした抗原特異的 TCR 遺伝子を導入したヒト T 細胞を作成する。特にヒトT細胞としてJURKAT細胞株を用いることで、安定的な評価系が可能となる。この人工的に抗原特異性を得たT細胞が骨髄腫細胞を初めとするがん細胞を認識するかどうかをin vitroで確認した上で担がんマウスに投与し、がん細胞の増殖抑制効果を検討する。最終的に、上記で得られた各種薬剤とともにT細胞を投与することで、薬剤による免疫増強効果を評価する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成30年度に免疫増強効果を持つ薬剤として抽出したプロテアソーム阻害薬として、当初もう一種類の薬剤も想定していたが、当該薬剤の入手が困難であり購入できなかったため、若干の未使用額が生じた。しかし、平成31年度にはデータベースを用いてプロテアソーム阻害薬以外の薬剤も抽出できる可能性が高く、これらの薬剤の評価に本資金を使用して行く予定である。
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