研究課題
2019年度は、2018年度に得られたIL-27が慢性骨髄性白血病(CML)の発症を抑制する結果の作用機序についての検討と、IL-27による抑制性免疫チェックポイント分子PD-L1発現増強の影響について検討を行った。(1) IL-27がCML発症を抑制する作用機序に関する検討:我々は、IL-27は、シグナル伝達分子として腫瘍増殖を抑制するSTAT1と腫瘍増殖を促進するSTAT3を、共に強力に活性化し、その結果は、その微小環境中での両者のバランスにより両方の作用を有すると考えている。以前に、IL-27は造血幹細胞(HSC)にはSCFと共に増殖を促進(STAT1<STAT3)することを明らかにしたが、今回、活性化した状態ではIL-27はSTAT1を介して増殖抑制を誘導すると考え、CMLの原因融合遺伝子BCR-ABLを遺伝子導入したがん幹細胞(BCR-ABL+HSC)では、STAT1の活性化の方がより強く、そのため増殖を抑制したのではという仮説を立てて検討を行った。In vitroの培養系で、BCR-ABLの遺伝子導入とIL-27の有無で、Annexin VとPI染色によるFACS解析により細胞死を測定したところ、両者が存在すると細胞死が増強される傾向が得られた。現在さらに、STAT1のリン酸化の程度を比較検討中である。(2) IL-27によるPD-L1発現増強の影響に関する検討:IL-27発現ベクターを遺伝子導入したメラノーマ腫瘍B16F10を用いて腫瘍微小環境内に浸潤しているミエロイド系細胞でのPD-L1発現増強を調べたところ、コントロールベクターを発現した腫瘍に比べ、PD-L1発現が増強されている傾向が得られた。さらに、浸潤しているCD11b+細胞を精製してリアルタイムRT-PCR解析での同様な傾向が得られた。現在、さらに抗PD-L1抗体投与の影響を検討している。
2: おおむね順調に進展している
概ね期待する結果が得られつつあるが、論文投稿に早く持っていけるように、綺麗なデータを揃えていきたい。
最終年度は、これまでのCMLおよびPD-L1発現増強でのIL-27の関与を纏め論文投稿にもっていくことと、IL-27の骨髄由来抑制性細胞(MDSC)への効果も検討する。(1) IL-27がCML発症を抑制する作用機序に関する検討:昨年度までに、in vitroの培養系で、BCR-ABLの遺伝子導入とIL-27の有無で、Annexin VとPI染色による細胞死を測定したところ、両者が存在すると細胞死が増強される傾向が得られたので、このデータを綺麗にとり、さらに、この時のSTAT1のリン酸化の程度を、それぞれ単独と比較し、両者存在下で強くなっているか、STAT1欠損マウスも用いて検討する。(2) IL-27によるPD-L1発現増強の影響に関する検討:IL-27がPD-L1発現を増強することは、抗腫瘍作用とは逆の腫瘍増悪化の促進に関与すると考えられが、このことは、PD-L1に対する抗体とIL-27との併用が、相乗的な抗腫瘍効果発揮に繋がる可能性が考えられる。そこで、B16F10だけでなく、マウス大腸癌腫瘍MC38も用いて、両者の効果を明らかにする。(3) IL-27のMDSC分化への影響に関する検討:まず、IL-27のin vivoでのMDSCへの効果を調べるため、IL-27発現ベクターを遺伝子導入したメラノーマ腫瘍B16F10をマウスに植えて、腫瘍内に浸潤したMDSCの割合と細胞数をFACSで解析する。次に、そのMDSCを、抗CD11b抗体とAutoMACS Proで精製後、卵白アルブミン(OVA)特異的なT細胞受容体のOT-Iマウス由来のCD8+T細胞の抗原特異的増殖への効果を、調べる。次に、マウス骨髄細胞をGM-CSF+G-CSF+IL-13存在下で培養しMDSCを分化誘導する培養系にIL-27を加え、in vitroでのMDSCへの分化抑制効果を明らかにする。
端数をピッタリ合わすことが難しいため、次年度使用額が生じた。次年度請求額と合わせて、消耗品の購入に充てる予定である。
すべて 2019
すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (5件) (うち国際学会 2件、 招待講演 1件)
iScience
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10.1016/j.isci.2019.05.011.
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