研究課題/領域番号 |
18K07335
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研究機関 | 長浜バイオ大学 |
研究代表者 |
吉川 清次 長浜バイオ大学, バイオサイエンス学部, 教授 (40333562)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 上皮間葉転換 / 間葉上皮転換 / 脂肪分化 / CD36 |
研究実績の概要 |
分子標的治療の開発が急務であるトリプルネガティブ乳癌の特徴である上皮間葉転換 (EMT)を標的にした治療の開発を目指している。これまでにEMTを可視化する独自のスクリーニング系を用いて上皮化を誘導するshRNAライブラリーをスクリーニングを行い、2種類のshRNA (shP1, shH1)を得ている。ともに上皮化を強力に誘導できるが一方のshRNAに強力な増殖抑制活性を持つ。また間葉系乳癌細胞の遺伝子発現解析より間葉系幹細胞マーカーCD73、脂肪細胞特異的転写因子PPARγの高発現を認めたことから、脂肪分化能をHMLE乳腺上皮細胞にH-Ras癌遺伝子と上皮間葉転換を誘導する乳癌幹細胞モデルを用いて検証した。その結果H-Ras癌遺伝子導入間葉系細胞 (Ras-Mes細胞)にのみ脂肪酸の取り込みに関わるCD36陽性細胞の出現を認めた。現在CD36陽性細胞の表現型を解析中である。CD36陽性細胞での細胞増殖抑制効果を認めた場合は、トリプルネガティブ乳癌の脂肪分化療法への可能性を開くものと考えられる。以上の内容を第18回日本乳癌学会近畿地方会にて演題名「間葉系乳癌細胞の分化制御療法の探求」として発表、優秀賞を受賞した。 文献調査では、脂肪酸受容体CD36と癌の転移との関係、間葉系乳癌細胞におけるグルタミンの代謝依存性、急性骨髄性白血病における上皮間葉転換の意義、新型コロナ感染症における肺線維化抑制の意義等を調べ、いずれも癌のみならず、非上皮細胞悪性腫瘍や、新型コロナ感染症の急性炎症と上皮間葉転換に共通し働く分子の関与が疑われた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
新型コロナウイルス感染症に対して、学内・学外実習、オンライン講義準備の対応のため、研究活動が制限された上に、研究機関の移動の準備も重なり、研究時間が極端に制限され、2020年度は主に文献調査と学会発表のみとなった。
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今後の研究の推進方策 |
間葉系乳癌細胞から誘導されたCD36陽性細胞の表現系と網羅的遺伝子発現を解析する。具体的にはCD36陽性細胞と陰性細胞をFACS sortingにより分離し、元の間葉系乳癌細胞と同時に、2D・3D増殖能・浸潤能の評価、遺伝子発現プロファイル・定量PCRによる脂肪分化状態の評価を進める。同時にCD36陽性細胞の誘導方法の検討を、候補化合物の添加により検討する。CD36陽性細胞の増殖能・浸潤能の低下を認める場合には、PPAR gammaレポーターを確立し、shRNA libraryを用いたpositive selection screeningを実施し、特定の遺伝子を抑制することにより脂肪分化を誘導できるshRNAを同定する方向で研究を進める。間葉系乳癌細胞におけるグルタミンの代謝依存性に関する論文から、上皮間葉転換においては代謝関連酵素の大規模なRNAスプライシングの変化が起こっている可能性が示唆され、網羅的遺伝子発現解析を通じて上皮間葉転換、脂肪分化に関与しつつスプライシング変化が起こる遺伝子の同定をバイオインフォマティクス解析より行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナ感染症による研究活動の制限のため、2020年度は科研費を使用せず、2021年度に回すことにした。2021年度は解析予定であった間葉系乳癌細胞から脂肪分化培地により誘導されたCD36細胞の解析をその細胞特性と遺伝子発現の観点から進める予定である。
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