乳癌幹細胞モデルHMLE/HMLER細胞の系で見つかった、EMT依存性脂肪分化能について、間葉転換を起こすことが知られている膠芽腫・骨肉腫・乳癌・肺癌で調べた。PPPARγ作動剤Rosiglitazone依存的に脂肪酸受容体CD36の発現が上昇するのは、乳癌の中でも限られた間葉系乳癌細胞であることが判明した。膠芽腫においては、Rosiglitazoneによって間葉系マーカー陽性細胞の減少を認めた。肺癌細胞においてはEMT依存的にCD44/CD73陽性細胞の増加を認めたが、Rosiglitazone投与前後でCD36に変化ない一方、細胞内顆粒の顕著な増加を認めた。 上皮間葉転換とH-Ras癌遺伝子の有無による細胞内代謝の変化をメタボローム解析した。乳癌幹細胞モデルHMLE/HMLER細胞の上皮細胞と間葉細胞、HMLE間葉細胞、HMLER間葉細胞の代謝物解析から、HMLE/HLER上皮細胞では、グルコースから乳酸へ向かう経路が活性化されている一方、HMLE間葉細胞では、乳酸発酵が抑制され、ペントースリン酸経路・ソルビトール経路の活性化を認めた。HMLER間葉細胞は、HMLE/HMLER上皮細胞の特徴 (乳酸発酵)とHMLE間葉細胞の特徴である、ペントースリン酸経路・ソルビトール経路の活性化の両方を認めた。癌幹細胞特性を持つHMLER間葉細胞は、代謝的に上皮細胞と間葉細胞の両方の特徴を併せ持つhybrid細胞であることが判明した。以上の内容は、2021 年10月1日 第80回 日本癌学会 学術総会口演英語セッションE11-1にて発表した。 上皮間葉転換とH-Ras癌遺伝子の有無による大規模な代謝の変化を認めたため、各細胞のトランスクリプトーム解析をRNA シークエンスにより行った。現在、代謝データとの関係を解析中である。
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