研究課題/領域番号 |
18K07341
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研究機関 | 国立研究開発法人国立がん研究センター |
研究代表者 |
三浦 奈美 国立研究開発法人国立がん研究センター, 研究所, 研究員 (80636978)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | アクチニン-4 / 表面プラズモン共鳴法 / リン酸化 / アクチン |
研究実績の概要 |
これまでに、アクチニン-4(ACTN4)は非小細胞肺がんの術後補助化学療法の効果予測バイオマーカーであり、ACTN4の発現が培養細胞の転移能と関係することがこれまでに明らかにしてきた。そこで、本研究はACTN4の転移能への寄与について分子レベルで機能解析を行うことを目的としている。 初めにACTN4の組換えタンパク質の作製を行った。野生型とその変異体2種(家族性糸球体硬化症の原因変異体および高悪性度肺神経内分泌腫瘍に特異的な選択的スプライシング)の組換えタンパク質を大腸菌で発現させた後、各種のカラムを使用して精製を行い、大用量の高純度のACTN4組換えタンパク質を得る方法を構築した。得られたACTN4タンパク質とACTN4の結合相手の分子の一つであるアクチンの結合を表面プラズモン共鳴法の機器であるBiacoreを用いて測定した。その結果、変異によりACTN4のアクチンへの結合の様式が変化することを観測することに成功した。さらにBiacoreを使用して、ACTN4と小分子化合物の結合が測定できる条件を決定することができた。 次に、ACTN4の活性化には翻訳後修飾が重要であると考え、まず初めにACTN4のリン酸化を調べることにした。ACTN4はEpidermal growth factor刺激によりリン酸化されるとの報告があるため、in vitroにおけるEpidermal growth factor receptor (EGFR)によるACTN4のリン酸化を質量分析で測定した。その結果、EGFRにより複数のACTN4のリン酸化サイトを見出すことができた。さらに、質量分析によるACTN4のリン酸化の測定法を確立することができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成30年度に予定していた研究計画は下記の通りである。 1)ACTN4の組換えタンパク質の作製:野生型と変異体2種の組換えタンパク質の作製系の構築ができた。また、リン酸化解析に必要な擬似リン酸化タンパク質の作製は、理化学研究所との共同研究で行い、現在準備中である。 2)共沈法、生物物理学的相互作用解析による結合・解離速度の測定:ACTN4とアクチンの結合について、表面プラズモン共鳴法の機器Biacoreでの測定方法を確立した。そして、野生型と変異体の間でアクチンへの結合様式が異なることを明らかにすることができた。 3)ACTN4へ結合する小分子化合物の探索:文献調査から得られたACTN4へ結合する小分子について、BiacoreをしようしたACTN4との結合を測定できる系を構築した。 以上の結果から、本研究は予定していた研究計画通りに進行している。
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今後の研究の推進方策 |
今年度以降に下記の研究を行う予定である。 1)ACTN4/アクチンフィラメント複合体の構造解析:ACTN4の機能を明らかにするうえで、アクチニンとアクチンの結合した構造の情報は重要である。しかし、現在までにその詳細な構造はまだ明らかになっていない。そこでACTN4とアクチンフィラメントの複合体の構造解析を行う。組換えACTN4とアクチンフィラメントの複合体を作製し、複合体をNMRや高分解能電子顕微鏡などを用いて構造を解析する。これについては理化学研究所との共同研究で行う予定である。また、近年原子間力顕微鏡でタンパク質のリアルタイムの観察が可能であることから、ACTN4とアクチンフィラメントの結合を原子間力顕微鏡で観察し、複合体の構造の解析と同時にACTN4とアクチンフィラメントの結合・解離を1分子単位で解析を行う。原子間力顕微鏡での測定については、金沢大学との共同研究で行う予定である。 2)ACTN4の翻訳後修飾によるACTN4の機能解析:i)EGFRによるACTN4のリン酸化を測定できたことから、キナーゼライブラリーを用意し、同様の測定方法で様々なキナーゼのリン酸化能を調べる。さらに、リン酸化能があるキナーゼが細胞の中でもリン酸化能を有しているか調べる。そして、それらのキナーゼを阻害することで、ACTN4の転移能を減少できるか調べる。ii)ACTN4にはイノシトールリン脂質との結合サイトがあるとされている。そこで、ACTN4に結合できるイノシトールリン脂質の種類を決定し、イノシトールリン脂質によるACTN4とアクチンの結合性の変化をしらべる。
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次年度使用額が生じた理由 |
理由:表面プラズモン共鳴法の実験が順調に進み、使う試薬が少なくなったため。また当初予定していた組換えキナーゼライブラリーの構築が間に合わなかったため。 使用計画:令和元年度にキナーゼライブラリーの構築を行うため、それに必要な試薬等を購入し研究を計画通り進める。
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