研究課題/領域番号 |
18K07349
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研究機関 | 新潟大学 |
研究代表者 |
田中 慎吾 新潟大学, 医歯学系, 助教 (30597951)
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研究分担者 |
川嵜 圭祐 新潟大学, 医歯学系, 准教授 (60511178)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 心の理論 / 脳内他者 / ECoG / fMRI / 電気生理学 |
研究実績の概要 |
他者の心を推測する能力は「心の理論」と呼ばれ、社会生活を営むにあたり、重要な能力となっている。これまでの研究により、「心の理論」には、複数の脳領野が関与していることが知られているが、自己とのインタラクションによって変化する他者の心や行動の脳内推測過程や、他者の心と周辺状況に応じた行動選択の神経メカニズムについてはいまだ未知である。そこで、本研究では、インタラクティブな実験課題を新たに開発し、他者行動モデルとそれを用いた戦略的な行動選択の神経生理学的基盤の解明を目指す。 そのために、平成30年度は、まずヒトを被験者とするfMRI実験を行うため課題制御システムを開発し、その課題を用いて予備実験を行った。同時に、ニホンザルからのECoG信号の記録に向けて、インタラクティブ課題の実験制御システムを開発したニホンザルに対する訓練を開始した。平成31/令和元年度は、より高磁場のMRI装置を用いて、多数のヒト被験者を用いた本実験を行った。さらにニホンザルに対する訓練を継続して行った。 令和2年度は、インタラクティブ課題の訓練を終えたニホンザルの、他者行動モデルおよび戦略的行動選択関連領野にECoG電極をインプラントし、ECoG信号の記録を開始する計画である。最終的に、ヒトとニホンザルから得られた実験データを解析し、脳内における他者行動モデルの計算過程と戦略的行動選択の神経メカニズムについて検討することで、他者の心と周辺状況に応じた行動選択や、経時的に変化する他者の心や行動の推測の神経メカニズムの解明につながることが期待される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究では、ヒトを被験者としたfMRI実験により、他者行動モデルや戦略的行動選択に関与する脳領域を同定するとともに、ニホンザルの他者行動モデル関連領野から記録したECoG信号を記録し、脳内における他者行動モデルの計算過程と戦略的行動選択の神経メカニズムの解明を目指す。 平成30年度に、ヒトを被験者とするfMRI実験を行うためのインタラクティブ課題を開発し、その課題を用いて予備実験を行った。平成31/令和元年度は、予備実験の結果をもとに課題を改良し、42名のヒト被験者に対して3TMRI装置を用いたfMRI実験を行った。課題中のヒト被験者の行動を解析した結果、被験者は対戦相手の行動を予測し、それに対応する行動をとることが分かった。また、被験者の行動を説明できる行動モデルを作成し、被験者の計算する脳内他者モデルを推定することにも成功した。さらに、課題中のfMRI画像を解析した結果、ヒト被験者の選択や脳内他者モデルの信頼度に応じたBOLD信号の変化を検出できることが分かった。特に、側頭頭頂接合部や前頭前野において、他者行動モデルや戦略的行動選択に関与する神経活動が観察されたことから、ニホンザルを用いた電気生理学実験では、これらの領域からECoG信号を記録する計画である。 一方、ニホンザルからのECoG信号の記録に向けて、インタラクティブ課題の実験制御システムを開発し、二頭のニホンザルに対してインタラクティブ課題を遂行するための訓練を施してきた。しかしながら、ニホンザル一頭の体調が悪化し死亡してしまったため、新たに一頭のニホンザルについて訓練を開始した。現在までに、インタラクティブ課題を遂行できるまでに訓練は進んでおらず、引き続き訓練を継続中である。
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今後の研究の推進方策 |
ヒトを被験者とするfMRI実験については、平成31/令和元年度中に、fMRI計測実験を終了した。しかしながら、実験課題の難易度が高いためか、解析可能な行動データが十分得られなかった。そこで、令和2年度には、20名程度の被験者を対象に追加実験を行う計画である。また、平成31/令和元年度中に、被験者の行動を説明できる行動モデルを作成したが、より高精度に被験者の行動を説明できるモデルを作成することができれば、解析対象となる被験者数を増やすとともに、より高精度に脳内他者モデルを推定することができる。そこで、令和2年度には、より高精度な行動モデルの構築も試みる。このようにして得られたデータを用いて、fMRI画像解析を行う。 ニホンザルを用いた電気生理学実験については、引き続き、インタラクティブ課題遂行のための訓練を行い、令和2年度中に、ヒトを対戦相手としたインタラクティブ課題を行う計画である。また、ニホンザルの訓練と並行して、ECoG電極の開発を行う。前頭前野内側部、前頭前野外側部、側頭頭頂接合部に適したECoG電極を開発し、訓練を終えた二頭のニホンザルにインプラントする計画である。同時に、頭部固定具のインプラントも行い、回復後、インタラクティブ課題遂行中のECoG信号の記録を行う計画である。令和2年度には、得られた実験データを解析し、脳内における他者行動モデルの計算過程と戦略的行動選択の神経メカニズムについて検討するとともに、ヒトfMRI実験の結果と比較することで、種間の違いと相同性について考察する。最終的に、研究成果の学会発表、論文の準備・投稿を行い、研究をまとめる計画である。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成31/令和元年度に、ECoG電極の設計開発を行う予定であったが、被検体であるニホンザルが死亡したこともあり、電極の設計開発が遅れている。そのため、次年度使用額は、令和2年度に、ECoG電極の開発に使用する。
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