他者の心を推測する能力は「心の理論」と呼ばれ、社会生活を営むにあたり、重要な能力となっている。これまでの研究により、「心の理論」には、複数の脳領野が関与していることが知られているが、自己とのインタラクションによって変化する他者の心や行動の脳内推測過程や、他者の心と周辺状況に応じた行動選択の神経メカニズムについてはいまだ未知である。そこで、本研究では、インタラクティブな実験課題を新たに開発し、他者行動モデルとそれを用いた戦略的な行動選択の神経生理学的基盤の解明を目指す。 そのために、平成31/令和元年度までに、まずヒトを被験者とするfMRI実験を行うため課題制御システムを開発し、多数のヒト被験者を用いた本実験を行った。同時に、ニホンザルからのECoG信号の記録に向けて、インタラクティブ課題の実験制御システムを開発し、ニホンザルに対する訓練を継続して行った。 令和2年度は、まずfMRI実験によって得られた行動データとfMRIデータの解析を行った。計算論的行動モデルを複数種類作成し、被験者の行動に対する説明力を比較検討した。その結果、ヒト被験者は自己の行動価値と他者の行動価値の両方を推定し、それらを統合することで意思決定することが分かった。さらに、課題に関与する脳領域を同定するため、fMRIデータの解析を行った。その結果、インタラクティブ課題には側頭頭頂接合部(TPJ)や後帯状回(PCC)、前頭前野の複数領域が関与することが分かった。 インタラクティブ課題には、上記のような脳領域が関与することが分かったため、ニホンザルの相当領域から神経活動を記録するためのECoG電極を設計した。さらにインタラクティブ課題のニホンザルに対する訓練を継続して行った。
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