研究課題/領域番号 |
18K07350
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研究機関 | 公益財団法人東京都医学総合研究所 |
研究代表者 |
横山 修 公益財団法人東京都医学総合研究所, 認知症・高次脳機能研究分野, 主任研究員 (60455409)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 交流電気刺激 / 眼球運動 / 運動実行 / サル / 前頭眼野 / 補足眼野 / 神経オシレーション活動 / 局所場電位 |
研究実績の概要 |
知覚や運動、あるいは認知といった様々な脳機能が働く時に特定の周波数の脳活動が増大する。また、こうした神経オシレーション活動の位相に応じて知覚や注意の効率が異なることも明らかになっている。しかし、これまでの多くの研究によって脳機能と神経オシレーション活動の相関関係が明らかにされてきたものの、神経オシレーション活動が脳機能を実現することに寄与しているのか、それとも、機能に単に付随している現象のひとつであるかは未だ明らかにされていない。本研究は、神経オシレーション活動の位相が運動の実行を制御するメカニズムのひとつであるという仮説を立て、運動と神経オシレーション活動の位相との関係を観察的に明らかにするだけでなく、交流電気刺激法を用いて神経オシレーション活動を人工的に誘発し運動実行への影響を調べることによって、この仮説を検証することを目的としている。本年度は交流電気刺激法の準備を進める一方、手首の運動実行と複数の大脳運動関連領域の神経オシレーション活動の位相との関係を解析した。ニホンザルが手首の運動を行ったタイミングは、調べた複数の大脳運動関連領域(一次運動野、補足運動野、帯状回運動野、大脳基底核)の局所場電位について、いずれもシータ波(3~8ヘルツ)において特定の位相に集中していた。ただし、その位相は領域によって異なっていた。これらの結果から、運動を実行する時、それに関与する相互に結合のある脳領域群がそれぞれ特定の状態にあり、特定の相互関係を形成していることが示された。シータ波を介して脳領域間の同期が調整されている可能性も示唆された。関与する領域が相互に特定の位相差で表される状態にあることが運動出力に重要であるのかもしれない。こうした仮説はシータ波を人工的に操作することで検証できると考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
昨年度には、自発的なサッカードが前頭眼野の約2ヘルツの活動の特定の位相において最も高い確率で起きることを示した。本年度は交流電気刺激を行うことによって神経オシレーション活動を操作し、その因果的役割を調べる計画であったが、実験に使用する動物の体調を考慮したことと、実験装置の準備が完了しなかったことから、刺激実験を行わなかった。そうした準備を整える一方で、他の動物個体を用いて、当初対象としていた眼球の運動に関連する神経活動ではなく、手首の運動に関連する神経オシレーション活動についても調べ、興味深い結果を得ることができた。すなわち、自発的な手首の運動が、複数の運動関連領域のシータ帯域(3~8ヘルツ)の特定の位相において最も高い確率で起きることが判明した。従って、眼球の運動で得られた結果が手首の運動に関しても同様に成り立っていること、すなわち、運動の効果器によらず、運動の生成と神経オシレーション活動の位相との間に密接な関係があることを明らかにした。また脳の多くの領域においてそのような関係がみられることも判明した。神経オシレーション活動が運動生成に因果的な役割を果たしているかどうかを検証するには、交流電気刺激法等の操作・介入的方法を用いる必要がある。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、神経オシレーション活動の位相が眼球運動の実行に寄与していることを明らかにするために、前頭眼野に電極を刺入し交流電気刺激を与えた時の、様々な眼球運動(注視、ドリフト、マイクロサッカード、サッカードなど)の性質(生成頻度、生成間隔、強度、速度など)の変化を見出す。一方で、眼球運動の実行は皮質下の構造を含む多数の脳領域によって複雑な制御を受けているので、大脳皮質前頭眼野の神経オシレーション活動を操作することによる眼球運動への影響の効果は明瞭に観察されるほど大きくない可能性も考えられる。そこで、前頭眼野の神経オシレーション活動の機能的意義をより高い感度で検出するために、神経オシレーション活動の位相依存的にパルス状の微小電気刺激を行う方法も検討する。この方法では、自発的に生じた神経オシレーション活動を検出し、その周期的な電位変化が特定の位相(たとえば、波形の山=ピークあるいは谷=トラフ)に到達したことをトリガーとして微小電気刺激を行った時の眼球運動への影響を調べ、神経オシレーション活動の位相の機能的な意義を明らかにする。前頭眼野へのパルス状の微小電気刺激がサッカードを誘発することが知られているが、それほど強くない電気刺激強度を与えた場合にはサッカードが誘発される場合とされない場合がある。こうした確率的なサッカードの誘発は神経オシレーション活動の位相によって規定されている可能性がある。位相依存的な電気刺激法によってこの仮説を検証することができると考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
双極電極やマニピュレーターの仕様や設計を検討したが、購入に至らなかった。最適な仕様・設計の検討を継続する。また、最終年度に論文投稿・掲載のための費用(英文校閲費・投稿料・掲載料)がかかることを見込んで、多めに持ち越す判断をした。最終年度にこうした費用として使用する予定である。
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