サルを用いた単一神経細胞活動記録の研究により,視覚領野の神経細胞は,視覚的注意に相関して活動を変化させるとされてきた.これらの研究では,活動記録中の神経細胞の受容野に物理的に同一の視覚刺激を提示する一方で,動物が受容野内の刺激に注意を向けた条件と向けない条件で生じた細胞活動の差を,注意によるものと解釈してきた.しかしながら,これらの研究では注意を向けるべき刺激には常に報酬が連合されており,観察された細胞活動の差は,実は注意ではなく報酬期待を反映していた可能性がある.本研究では,視覚野の神経細胞活動を,注意と報酬(とりわけ動機付け)の両方を要因にして変動する統計モデルを用いて解析し,視覚野の神経細胞活動における報酬系の関与を検証する. サルに視覚探索課題を訓練し,課題遂行中にV4野から単一神経細胞活動を記録する.報酬量を試行ごとに変えることで,動物の報酬期待,とりわけ動機付けが異なる条件を導入する.もし,V4野の神経細胞活動が報酬系に関与していれば,報酬以外の実験条件が同一であっても,報酬量に依存して活動の変化が観察されるはずである. 前年度に引き続き,神経細胞活動の記録実験に着手すべく動物へ行動課題を訓練した.訓練を加速させるために,報酬量が異なる3条件を導入し,連続して正答すれば多報酬条件へと1段階上げ,誤答すれば少報酬条件へと1段階下げるようにした.神経細胞活動の記録実験では,動物の動機付けが異なる状態を作出する必要がある.まだ訓練段階ではあるものの,多報酬試行では少報酬試行に比べ,試行最初からサッカードによる反応期に渡って瞳孔径が約5%増大していることを確認できた.瞳孔径は自律神経により調節されており,動機付けの指標となり得る. プロジェクト期間は終了となるが,今後,神経細胞活動を記録し,V4野の神経細胞活動を注意による要因と動機付けによる要因で解析する.
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