我々の誰もが持つ「食べたい」という欲望が生じる脳内メカニズムを知ることは、飽食の時代と言われる現代の重要な課題である。これまでの研究では、摂食行動が、脳内の特定の神経核や伝達物質、末梢からの因子などが重要な役割を果たしていることは示されてきたが、「欲」については不明な点が多かった。本研究では、食欲の具体的な神経メカニズムに迫るため、食欲調節に直接的に関わる島皮質神経細胞群に焦点を絞ることで、それらの細胞群の果たす具体的な役割を探ることを目標としていた。そのために必要だったのが、c-fosやArcなどの神経活動の指標となるマーカーを活用することで、それらが発現した細胞群をターゲットとして様々な行動反応等への関与を調べるために、私たちは、マウスが、実際に食に対する欲求を高めていると考えられる瞬間の、神経活動マーカーの発現のようすをしっかり捉えることを重要視して研究を進めてきた。これまでに、c-fosとArcに関して、どちらがより食欲を調べるマーカーとして利用しやすいかを検討したところ、c-fosのほうが我々の用いる刺激に対して敏感に反応することが分かった。その後、より効率よく研究を進めるために、刺激に対して、c-fosの発現が最もよく起こるタイムポイントを探る実験を行い、先行研究よりも早いタイムポイントでも、c-fosの発現がしっかり確認できることを見出した。本研究で得られたデータは非常に基礎的なデータであるが、今後の発展的な研究の役に立つ重要な知見を得ることができた。
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