核内RNA結合分子であるFUSは筋萎縮性側索硬化症(ALS)の原因因子の一つである。変性が生じた神経細胞ではFUSの異常な凝集体が認められることから、FUSの凝集体形成が疾患発症に深く寄与すると考えられてきたが、その分子機構は明らかではない。495番目のアルギニンが停止コドンに変異したR495X 変異は家族性ALS患者で見いだされたものであり、同変異を持つ患者において重篤な疾患症状を引き起こす。R495XではC末端部位の核移行シグナルが完全に欠失しているため、同変異体は異所的に細胞質に多く局在する。その凝集様式を解明するため、EGFPタグを付加したFUSR495X体、及び分子内に存在する機能ドメイン欠失体を作成し、マウスES細胞由来神経細胞を用いて凝集体形成に必須のドメインを明らかにすることとした。その結果、グリシンがリッチな領域(Gly-rich)及びアルギニン―グリシン―グリシン配列が反復する2つの領域(RGG1とRGG2)のいずれかを欠失した場合、R495X体に比較して有意に凝集体形成量が減少することを見出した。これら領域中のアルギニンはメチル化修飾を受けることが知られていたことから、R495Xのメチル化に着目した解析を行った結果、上記Gly-rich、RGG1、RGG2それぞれの欠損体ではアルギニンメチル化修飾量がR495X体に比較して有意に減弱すること、また、人為的にR495X体のメチル化を増加させると凝集体形成が促進され、減少させると凝集体形成が抑制されることを見出した。これらのことから、FUSの分子内のGly-rich、RGG1、RGG2におけるメチル化がFUSの凝集体形成の制御因子であることを明らかとした。
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