研究課題
中枢神経系のpH変化は神経機能に重篤な影響を及ぼすと考えられるが、そのメカニズムは依然不明である。脳神経系にはpH 7.6~6.0を感知するプロトン感知性G蛋白共役型受容体(TDAG8、GPR4、OGR1)が発現している。神経系細胞ではないが、内皮細胞にはGPR4が発現している。本研究では、マウスに中大脳動脈閉塞手術を施し、虚血・再灌流後の酸性ストレスによる脳梗塞の進展にこれらの受容体がどのように関わっているかを明らかにする。平成30年度では、虚血・再灌流後の脳組織におけるpH変動を調べた。また、脳虚血後のダメージにプロトン感知性受容体がどのような役割を担っているか、マウスの脳虚血モデルを用いて解析し、以下のような実績を得た。(1)マイクロpHセンサーを用いて脳組織におけるpH変動を調べたところ、中大脳動脈を閉塞すると血流支配領域のpH低下が観察された。(2)プロトン感知性受容体サブタイプ発現への虚血・再灌流による影響を調べた。大脳組織においてTDAG8、GPR4、OGR1は明らかに発現しており、虚血・再灌流処置によるTDAG8の誘導が観察された。(3)プロトン感知性受容体欠損による脳虚血マウスの運動機能、梗塞領域への影響を調べた。TDAG8欠損では虚血・再灌流による運動機能低下や梗塞領域が軽減されていた。また、GPR4欠損では梗塞領域の低下する傾向が見られた。このように、脳組織は虚血によって弱酸性pHに暴露され、プロトン感知性受容体が pH変化を感知し、脳虚血後のダメージに対して何らかの作用を及ぼしていると推測された。
2: おおむね順調に進展している
平成30年度では、マウスに中大脳動脈閉塞手術を施し、脳組織におけるpH変動とプロトン感知性受容体欠損の影響を解析してきた。中大脳動脈を閉塞すると血流支配領域のpH低下が観察された。虚血・再灌流による脳梗塞に対してTDAG8が抑制的に、GPR4が促進的に関わるのではないかと推察される。しかし、虚血・再灌流後の脳組織における神経細胞、グリア細胞の詳細な状況を観察することまで至らなかった。今後、培養細胞を用いる解析に加え、このような未解決の項目に関して継続してプロトン感知性受容体の役割を探索する。
虚血・再灌流後の酸性ストレスに対するプロトン感知性受容体の役割を探索するため、中大脳動脈閉塞による虚血モデルを用いて平成30年度で未解決の項目に関して継続して行う。また、次年度の研究計画に従い、プロトン感知性受容体が脳虚血と関連したミクログリアの活性制御に関与しているのか、炎症性サイトカイン産生とプロトン感知性受容体の関連性を解析する。さらに、培養ミクログリアを用いて細胞外酸性pH応答を調べる。
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