中枢神経系のpH変化は神経機能に重篤な影響を及ぼすと考えられるが、そのメカニズムは依然不明である。脳神経系にはpH 7.6~6.0を感知するプロトン感知性G蛋白共役型受容体(TDAG8、GPR4、OGR1)が発現している。本研究では、マウスに中大脳動脈閉塞手術を施し、虚血・再灌流後の酸性ストレスによる脳梗塞の進展にこれらの受容体がどのように関わっているかを明らかにする。令和2年度では虚血による低pH環境変化が脳微小血管のバリア機能制御にGPR4が関わるのか調べた。また、酸性pHによる内皮細胞の接着分子発現調節におけるシグナル伝達機構を解析し、以下のような実績を得た。 (1)野生型マウスに対してGPR4欠損マウスでは虚血・再灌流後の梗塞領域が縮小、また、血漿成分の脳実質内へ漏出が減少する傾向であった。 (2)TNF-αによる単球の内皮細胞への接着応答を調べたところ、TNF-α作用に対する酸性pHによる増強効果が観察された。また、酸性pH刺激によるGPR4(cAMP、Rhoシグナル系)を介した接着分子の発現調節作用が観察された。 このように、脳組織は虚血によって弱酸性pHに暴露され、内皮細胞に発現しているGPR4がpH変化を感知し、虚血後の脳病態に影響を及ぼすと推測された。しかし、虚血後の血球系細胞の浸潤に関する定量的解析が十分でなく、今後も継続して微小血管機能変化におけるプロトン感知性受容体の役割を追究する。 研究期間全体を通じて、脳虚血に伴う炎症性疾患において脳保護作用や微小血管バリア機能制御にプロトン感知性受容体の関与が考えられた。
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