研究課題
本研究では、筋萎縮性側索硬化症の病因タンパク質TDP-43の生理機能、そして神経変性を発揮する分子機序を解明することを目的として、次の3点に関して研究を遂行した。1.TDP-43によるオートファジー制御機構の解明。前年度までにNeuro-2a細胞を用いてTDP-43をノックダウンするとULK1タンパク質の発現が低下し、オートファジー活性が低下することを見出した。前年度作出したAAV9-TDP-43マウスを用いて検討したところ、コントロールに比べ、脊髄でのUlk1 mRNAは上昇し、一方でULK1タンパク質量が有意に低下することを見出した。TDP-43の過剰発現によりUlk1 mRNAがトラップされ、翻訳が抑制された可能性が示唆された。またHEK293細胞にヒ素を添加したところ、ストレス顆粒にTDP-43、FUSが局在することを見出した。今後TDP-43がストレス顆粒のターンオーバーに与える影響を明らかにする。2.TDP-43がオートファジーを介して神経毒性を発揮する機序の解明。前年度までにAAV9-TDP-43マウスが進行性の運動機能障害を引き起こすことを明らかにした。そこで、Ulk1がTDP-43過剰発現による運動機能障害に与える影響を検討するため、Ulk1欠損マウスにAAV9-TDP-43を発現させたところ、運動機能障害が増悪化することが分かった。Ulk1がTDP-43による毒性に防御的に働いている可能性が示唆された。3.TDP-43プロテイノパチーにおいてTDP-43が異常性を獲得する機序の解明。進行性の複眼変性を呈するTDP-43 tg flyを用い、lncRNAのNeat1_1を過剰発現させると毒性が回復するが、FUS tg flyでは回復しないことを明らかにし、Neat1_1がTDP-43の毒性に関与する可能性を明らかにした。
2: おおむね順調に進展している
本研究の3つの柱について、①TDP-43によるオートファジー制御機序解明について、これまでに標的タンパク質であるUlk1を見出したが、その生理的役割についてはまだ明らかではない。今後さらにストレス顆粒の代謝経路に注目した検討、またin vivo実験系の検討が必要であるため、計画より遅れていると考えられる。②オートファジーによるTDP-43の毒性制御機構については、新規のAAV9-TDP-43発現系を用いてUlk1がTDP-43の毒性に関与することを明らかにし、計画以上に進んでいると言える。③のTDP-43プロテイノパチーにおいてTDP-43が異常性を獲得する機序の解明について、前年度Ataxin-2の関与について明らかにし、今年度はNeat1_1の関与について明らかにした。いずれもTDP-43毒性に特異的に関与する分子であり、今後これらの分子がどのようにTDP-43の毒性獲得に関与するか明らかにする。概ね順調に進んでいるといえる。これらを総合的に判断して、本研究は概ね順調に進んでいると判断した。
1.TDP-43によるオートファジー制御機構の解明。培養細胞系において、ストレス顆粒の形成・機能・消失の三過程にTDP-43とFUSがどのように関与するか、時系列を追って検討する。これまでにTDP-43は特に消失過程、FUSは形成過程に関与する知見が得られており、より詳細に検討し、さらにストレス顆粒の消失にTDP-43/Ulk1がオートファジー経路を介して関わることを明らかにする。2.TDP-43がオートファジーを介して神経毒性を発揮する機序の解明。Ulk1がTDP-43毒性に防御的に関与する可能性を見出した。そこで、AAV9-TDP-43マウスやALS患者組織を用いてUlk1の発現及びオートファジー活性を検討し、オートファジー活性がTDP-43毒性に関与するか否か明らかにし、オートファジー活性に関与することで、AAV9-TDP-43マウスの運動機能低下を改善しうるか検討を行う。3.TDP-43プロテイノパチーにおいてTDP-43が異常性を獲得する機序の解明。これまでに、TDP-43の神経毒性に対し、Ataxin-2、Neat1_1が共に毒性を減弱させることを見出した。近年、TDP-43、ataxin-2、Neat1_1はいずれも、液-液相分離現象に関与することが見出されたことから、TDP-43はRNAとの相互作用を失うことにより、異常な相分離を引き起こして凝集を開始する可能性を考え、培養細胞を用いて詳細に検討を行う。
本年度AAV9-TDP-43発現実験を行っているが、感染後1,3,6,12ヶ月後に回収して解析するため、解析が次年度に繰り越すすこととなった、
すべて 2020 2019 その他
すべて 国際共同研究 (2件) 雑誌論文 (5件) (うち国際共著 1件、 査読あり 5件、 オープンアクセス 5件) 学会発表 (4件) (うち国際学会 2件)
Acta Neuropathologica Communications
巻: 8 ページ: 67
10.1186/s40478-020-00936-3
Molecular Neurodegeneration
巻: 14 ページ: 15
10.1186/s13024-019-0315-7
PLoS ONE
巻: 14 ページ: e0219465
10.1371/journal.pone.0219465
PLoS Genetics
巻: 15 ページ: e1008308
10.1371/journal.pgen.1008308
Cell Reports
巻: 29 ページ: 4362-4376
10.1016/j.celrep.2019.11.112