研究課題
前年度までの研究で,疼痛の伝達における脊髄Cyr61-β1インテグリン経路に着目し,β1インテグリン拮抗薬の開発に取り組み,インシリコスクリーニングと細胞・行動薬理学的研究から,活性が弱いながらも阻害薬候補化合物(化合物F)の獲得に成功した。本年度はまず,神経障害性疼痛モデルマウスの疼痛反応に対する化合物Fの効果検討を行うとともに,さらに強い阻害活性を持つ化合物の獲得に向け,化合物Fからの誘導体化合物の合成展開と評価を行った。坐骨神経損傷により誘発されるアロディニア反応に対し,化合物Fを脊髄くも膜下腔内に投与したところ,弱いながらも抑制効果が認められたが,その効果は対照薬として投与した既存の鎮痛薬よりも弱いものであった。また,化合物Fから誘導体化合物を8化合物合成し,まずアストロサイト細胞株KT-5を用いたCyr61刺激によるAktリン酸化,ERKリン酸化を指標に,インテグリン阻害活性を調べたところ,化合物Fの阻害活性を大きく上回る化合物の獲得には至らなかった。インテグリンはα鎖とβ鎖の2つのサブユニットからなるヘテロダイマーであり,β1インテグリンは種々のα鎖とヘテロダイマーを形成(αxβ1)し,様々な機能を果たす。そこで疼痛伝達におけるαxβ1の同定を目指し,既存の阻害薬の効果を検討した。本年度は,α5β1阻害薬ATN161の効果を検討した。Cyr61の脊髄くも膜下腔内投与により,投与後3時間からアロディニアが発症するが,Cyr61とATN161の同時投与により,アロディニアの発症はほぼ完全に抑制された。したがって,Cyr61により誘発される疼痛様行動には,β1インテグリンとホモダイマーを形成するα5インテグリンも重要であることを明らかにした。
3: やや遅れている
インテグリン阻害候補化合物Fから,さらに強い活性を持つ化合物の獲得を目指し,構造活性相関に基づく誘導体化合物の合成と薬理評価を行ったが,化合物Fの阻害活性を大幅に上回る化合物の獲得に至らなかったため「やや遅れている」と自己評価した。一方で,新たにα5β1阻害薬ATN161がCyr61誘発アロディニアをほぼ完全に抑制することを見出し,化合物FとATN161とのキメラ化合物の獲得に向けて研究を進めており,遅れを挽回したいと考えている。
インテグリン阻害候補化合物Fから,誘導体化合物の合成と薬理評価を行ったが,化合物Fの阻害活性を大幅に上回る化合物の獲得に至らなかったため,引き続き誘導体化合物の合成と薬理評価に取り組む。一方で,昨年度の研究成果より,α5β1阻害薬ATN161がCyr61誘発アロディニアをほぼ完全に抑制することを見出した。ATN161はペプチド性化合物であるため,経口投与後のバイオアベイラビリティーは期待できない。そこで小分子阻害候補化合物である化合物FとATN161の構造を両方有するようなキメラ化合物のデザイン・合成と薬理評価に取り組み,新規化合物の獲得を目指したいと考えている。また,疼痛伝達におけるα5β1以外のαxβ1の同定を目指し,種々阻害薬の効果を検討し,ヒット化合物においては同様に,キメラ化合物のデザイン・合成と薬理評価に取り組む予定である。
購入を計画していた物品が,新型コロナウイルス感染症関連の事情で年度内に納品できなくなったため,次年度に繰り越し,次年度に再度購入することとした。
すべて 2020 2019
すべて 雑誌論文 (3件) (うち査読あり 3件、 オープンアクセス 3件) 学会発表 (14件) (うち国際学会 3件、 招待講演 1件)
Eur J Med Chem.
巻: 186 ページ: 111902
10.1016/j.ejmech.2019.111902.
FASEB J.
巻: 33(11) ページ: 11821-11835
10.1096/fj.201900477RR.
Sci Rep.
巻: 9(1) ページ: 11833
10.1038/s41598-019-48361-4.