研究課題/領域番号 |
18K07370
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研究機関 | 高知大学 |
研究代表者 |
由利 和也 高知大学, 教育研究部医療学系基礎医学部門, 教授 (10220534)
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研究分担者 |
大迫 洋治 高知大学, 教育研究部医療学系基礎医学部門, 准教授 (40335922)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 心理ストレス / パートナーロス |
研究実績の概要 |
一夫一婦制を営むげっ歯類の雄を絆形成後にパートナー雌と別離させると、不安症状を示すようになり、さらに痛み行動も悪化する(痛みの心理ストレスモデル)。本研究において、このモデルに炎症性疼痛を惹起すると、痛み刺激を与えていない定常状態に比べて、パートナー維持群・ロス群ともに視床下部室傍核においてc-Fosタンパクの発現ニューロン数が著しく増加し、痛み刺激に対する視床下部室傍核ニューロンの反応性がパートナーの存在により変化することが示唆された。定常状態の視床下部室傍核においては、ロス群が維持群よりFosB発現ニューロン数が顕著に多かった。これらのことから、パートナーロスという慢性的な心理的ストレスにより、視床下部室傍核ニューロンのキャラクターが変化している可能性が示唆された。今年度は、視床下部室傍核ニューロンの神経化学的変化を、オキシトシン、バゾプレッシン、コルチコステロン放出ホルモンの各抗体を用いてその免疫反応性(陽性ニューロン数、蛍光強度)を維持群とロス群間で評価した。その結果、ロス群においてバゾプレッシンとコルチコステロン放出ホルモンの免疫反応性が維持群より高く、オキシトシンについては両群間で差は検出されなかった。コルチコステロン放出ホルモンとバゾプレッシンの免疫反応の増加は、慢性的心理ストレスによる視床下部-下垂体-副腎皮質系の活性を示唆していると考える。その証拠に、血中コルチコステロン濃度がロス群で維持群より高い。対して、オキシトシンの免疫反応にパートナーの影響が見られなかったが、今回の研究はパートナーロス6日後の解析であり、まだパートナーへの嗜好性が維持されている期間である。したがって、本研究に用いたモデルでは、慢性的な心理ストレスにより、視床下部-下垂体-副腎皮質系が活性化し不安症状や鬱症状が出現するが、オキシトシンの中枢作用は維持されていることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
去年度の研究結果から、慢性的な心理的ストレスにより視床下部室傍核ニューロンのキャラクターが変化している可能性が示唆されたが、本年度の解析により、そのキャラクターの変化を神経化学的変化として捉えることができた。引き続き、変化したこれらの神経化学物質をターゲットに解析を進めることで、心理ストレスが痛みを修飾するメカニズムの解明に近づくことができると考える。
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今後の研究の推進方策 |
今年度の研究では、慢性的な心理ストレスによる視床下部室傍核ニューロンのキャラクターの変化を神経化学的に捉え、主な構成ニューロンであるオキシトシン、バゾプレッシン、コルチコトロピン放出因子ニューロンでその変化が異なることが明らかになった。コルチコトロピン放出因子の変化については視床下部-下垂体-副腎皮質系の活性を示唆していると考えているが、ホルモンとしての作用の他に、疼痛関連脳領域に投射して神経修飾物質・神経伝達物質として作用していることも考慮しなければならない。そこで、次年度は痛み刺激によるcFos発現に差が検出された前頭前野、側坐核、扁桃体を中心にコルチコトロピン放出因子の免疫反応を痛みの心理ストレスモデルで解析する。オキシトシンとバゾプレッシンについても同様にホルモンとしての作用に加えて、疼痛関連脳領域に投射して中枢作用を発揮するので、前頭前野、側坐核、扁桃体を中心に神経終末の免疫反応を痛みの心理ストレスモデルで解析する。心理ストレスによる視床下部室傍核ニューロンと同様な神経科学的変化が脳内ドーパミン回路でも生じている可能性があるので、腹側被蓋野、前頭前野、側坐核、扁桃体でチロシン水酸化酵素の免疫反応を解析する。さらに今年度に引き続き、心理ストレス群の側脳室へオキシトシン、バゾプレッシン、コルチコトロピン放出因子ニューロン受容体のアゴニストを投与して、パートナーロス群の痛み行動の増悪がレスキューされるか確認し、視床下部室傍核ニューロンが心理ストレスによる痛みの修飾に関与するか検証していく。
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次年度使用額が生じた理由 |
本研究に用いた実験動物はすべて自家繁殖で系統維持しており、飼育匹数の変動による飼育維持管理費および餌購入費が当初の予定と若干異なったために翌年度に繰り越した。繰り越し分については、次年度の実験動物の飼育維持管理費用に引き続き充てる。
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