本研究では、一夫一婦制げっ歯類のペアを絆形成後にパートナーと別離させると(パートナーロス)、新規環境下で不安行動が増大し、さらに炎症時の痛み関連行動も増悪するという痛みの心理社会ストレスモデルを用いている。このモデルに炎症性疼痛を惹起すると、パートナー維持群・ロス群ともに、視床下部室傍核ニューロンにおいてcFos蛋白が著しく発現し、ロス群の方が維持群より有意に多く発現した。定常状態では、視床下部室傍核ニューロンのcFos発現には両群間で有意な差は検出されなかったが、FosBとコルチコステロン放出因子の免疫反応性においてロス群で維持群より有意に高かった。ロス群において、パートナーとの別居1週間後にパートナープリファレンステストを実施したところ、ストレンジャーよりパートナーへの親和行動量が有意に多く観察された。これらのことより、パートナーとの別離期間中においてもパートナーに対する嗜好性を維持しており、パートナーロスにより視床下部-下垂体-副腎皮質系が別離期間中に活性化される可能性が示唆された。さらに、両群間で痛み刺激によるcFos発現に差が検出された扁桃体において、ロス群のコルチコトロピン放出因子の免疫反応性が維持群より高い傾向にあったので、扁桃体にコルチコトロピン放出因子受容体のアンタゴニストをロス期間中に投与してロス群における炎症疼痛行動の増悪が抑制されるか検証した。その結果、コルチコトロピン放出因子受容体アンタゴニスト投与により、両群間の疼痛関連行動の差が消失したものの、コントロール群(人工脳脊髄液投与群)においても同様の結果であったため、扁桃体におけるコルチコトロピン放出因子がパートナーロスストレスによる疼痛行動の増悪に関与するのか評価することができなかった。
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