研究課題/領域番号 |
18K07379
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研究機関 | 近畿大学 |
研究代表者 |
朴 雅美 近畿大学, 医学部, 講師 (70469245)
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研究分担者 |
佐藤 文孝 近畿大学, 医学部, 助教 (30779327)
萩原 智 近畿大学, 医学部, 講師 (40460852)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | ピロリ菌 / アルツハイマー型認知症 / 炎症 / 神経細胞 |
研究実績の概要 |
本年度はin vivoとin vitro双方から3つの研究を実施した。1)アルツハイマー型認知症(AD)モデルマウスであるAPP/PS1 トランスジェニックマウス(ADマウス)の繁殖と、それらへのピロリ菌感染を実施した。当初の計画通り、本感染実験は長期的な観察をベースとするため、ピロリ菌前後での採血を実施した後、飼育・観察を継続している。2)以前の予備実験より、老齢マウスへのピロリ菌感染が髄膜炎を誘発することを見出していた。この炎症に関与する因子として感染そのものもしくは菌体成分のいずれが影響しているのかを明らかにするため、ADマウス及び、野生型マウスへピロリ菌の死菌を投与し、その後の認知力の変化を経時的に観察している。認知力の低下の指標として、物体認識テストを実施している。その結果、ADマウスでは、認識に関しては低下が認められず、探索行動そのものが有意に低下していることが明らかとなった。今後は投与後の炎症レベルについて検討を実施知る。3)神経細胞に対し、ピロリ菌が分泌する成分などが細胞増殖やタンパク質発現にどのような影響を持つかを検討している。マウスに感染しうるピロリ菌はシドニー株のみであり、本株はピロリ菌発現する毒素であるCagA、VacAともに陰性である。このため、これらの影響を動物実験で検討することは困難である。そこでCagA、VacAともに陽性のTN2株を用い、マウス神経細胞株Neuro2Aに菌の培養液を曝露させ、その影響を調べた。この際、シドニー株とコントロールとして大腸菌の培養上清も曝露させた。その結果、TN2株、シドニー株、ともに増殖を抑え、アルツハイマーに関連するタンパク質の発現を増加させたが、大腸菌ではそれらの影響はみられなかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ADマウスの繁殖が予定通り進まず、若齢での突然死も頻発するため、当初使用を予定していた雌(使用が推奨されている)の個体が十分に確保できなかった。そこで、研究には雌雄問わず用いることに切り替え、ピロリ菌感染実験を開始し、経過を観察している段階である。また、ピロリ菌感染ではなく菌体成分そのものの脳への影響を調べるため、死菌を調整し、経口的に投与し、3ヶ月後に脳を回収し解析した結果、炎症細胞が増加していることが確認できた。本研究は長期観察が必要な研究がメインとなるため、当初は計画に含まれていなかった培養細胞を用いた研究も感染実験と並行して実施している。この事のメリットはマウスへの感染実験ではピロリ菌の中で唯一感染しうるシドニー株(SS1)を用いることとなるが、本株はピロリ菌発現する毒素であるCagA、VacAともに陰性である。これらの毒素の生体への影響は大きいため、検討事項に加えるのは重要である。このため、SS1株に加えてCagA、VacAともに陽性のTN2株を使用したin vitro研究を加えた。これによってTN2株と同様にSS1株でも細胞の増殖やAD関連タンパク質の発現に影響を与えていることが判明した。この結果から、感染実験にSS1しか用いることができないことのデメリットは小さいことが明らかとなった。認知試験は現時点で容易に開始可能であった物体認識テストを実施している。モリス水迷路に関しては今後導入を予定している。多発性硬化症(MS)モデルマウスに関しては、現時点では着手していない。
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今後の研究の推進方策 |
計画書通りに研究を進める予定である。 すでにピロリ菌感染が成立したマウスに関して、経時的な観察、認知試験、血液採取を行い免疫の変化などをELISA等で解析する予定である。培養細胞株を用いた研究においては、繁用されている細胞株を入手し、動物実験と合わせた検証を実施する。また、すでに結果が得られているピロリ菌の培養上清曝露によって起こるNeuro2A細胞の増殖抑制やタンパク質発現の変化がどのようなメカニズムで起こるのかを明らかにしていく。増殖抑制は培養上清を加熱することで見られなくなることから、熱感受性の分子であることが現時点で明らかになっている。つまり、LPSでなくタンパク質である可能性が高い。こういったデータを元により詳細な解析を進めていく。 MSマウスに関しては施設の関係上、ADマウスの感染実験終了後に実施することを計画している。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初の予測よりもアルツハイマーモデルマウスが出生しなかったことから、実験開始が少し遅くなったため、ELISAなどの使用期限が比較的短い試薬類の購入を抑えたため、次年度への繰越となった。また、抗体試薬や消耗品などの一部はキャンペーンに合わせて購入したことから、当初の計画よりも予算を抑えることができた。
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