今年度はこれまでに回収したピロリ菌(HP)長期感染マウス[アルツハイマー型認知症(AD)モデルマウスであるAPP/PS1 トランスジェニックマウス(ADマウス)と野生型マウス]の脳の病理学的解析と血清を用いた菌体成分の定性を実施した。また、神経系の免疫細胞株を入手し菌体成分に対する反応性を調べた。 脳の炎症に中心的な役割を果たすミクログリア活性化マーカー(Iba1)が長期感染マウスで非感染マウスに比較して有意に増加していることが分かった。これは野生型とADマウスに差はなかった。この結果と前年度までの結果から、HP感染は脳の炎症性細胞を活性化させる事がわかった。 HP感染が遠隔臓器に影響を及ぼすメカニズムとして、前年度までの研究結果から、HPが産生/分泌する何らかの成分が全身性に影響を及ぼすのではないか、と考えた。グラム陰性菌は外膜小胞(OMV)を産生し、それが血中を移動することがこれまでにも多数報告されているため、この存在を感染マウス血清で確認した。OMVは腸内細菌なども分泌すること、菌由来DNAを含むことなどを考慮し、HPゲノムDNAの存在の有無をPCRにて調べた。その結果、大半のマウス血清中にHPゲノムDNAが存在していた。以上のマウス実験から、菌のOMVが脳の炎症に関与している可能性が考えられた。 次に細胞株を用いた確認実験を実施した。細胞はマウス由来のミクログリア、アストロサイト、オリゴデンドロサイトの3種を用いた。HPとそのコントロールとして大腸菌が産生するOMVはそれぞれの培養液から超遠心法によって回収した。ミクログリアとアストロサイトはOMV存在下で炎症性の分子であるIL-6、NO合成酵素、ケモカインリガンド2などを産生することが分かった。これはHP由来、大腸菌由来いずれのOMVでも起きた。一方でオリゴデンドロサイトはこれらの分子の産生は起こらなかった。
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